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  ぎゅって抱きしめられる

  瞬間が好き。あったかく

  て愛しくて苦しくなる。

  彼の匂いでいっぱいにな

  るその時が何よりも幸せ

  で思わず頬を首に擦りつ

  けた。




  ははっ、と彼が柔らかく

  笑ってさらに腕に力を入

  れた。少しだけ痛い。で

  もそのくらいが調度いい

  。愛しさが伝われば良い

  のに、なんて心の中で静

  かに考えてみた。




  「エース、」


  「…どうした?」




  項に落とされた唇が熱い

  。ぴくりと身体が反応し

  て彼が笑う。吐く息は確

  かに白いのに寒さなんて

  微塵も感じない。とけそ

  うなまでの幸福感に包ま

  れて私はただ泣きたくな

  った。




  「すき、だよ」


  「…急にどうした、」


  「わかんない、けど」




  嘘じゃないの。続けよう

  と思った言葉は彼によっ

  て呑みこまれ甘い渦に巻

  き込まれていく。くちゅ

  り、と水音が辺りに響い

  て名残惜し気に離れた唇

  に寂しさが胸を掠めた。




  「あんま、煽んなよ」




  その全てが愛しくて、愛

  しすぎて切なくて、ただ

  離れたくなかった。涙が

  流れるのは貴方に会えて

  あまりにも幸せだから。

  幸せすぎて怖いからだ。




  涙を隠すように埋めた胸

  元で一定のリズムを刻む

  鼓動に耳を傾けながらそ

  っと呟いた。どうか、想

  いが伝わりますように。





  「うまれてきてくれて、

   ありがとう。エース」








  「…ありがとな」






  聞こえた声は微かに震え

  鼓動が僅かに揺れ動く。

  そんな二人を星空だけが

  静かに見つめていた。



  


  0104.Ace


  





               end




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