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  甘ったるい匂いが厨房に広が

  る。大きなボールに細かく刻

  んだチョコレートを入れゆっ

  くりと溶かした。早く、早く

  と焦る気持ちを必死に抑えな

  がら、貰ってもらえるかもわ

  からないチョコをくるくると

  掻き混ぜる私の姿は滑稽だろ

  うか。甘いものは嫌いじゃな

  いはず。ああみえて意外と鋭

  い彼のことだから、きっと今

  日がなんの日か知っているだ

  ろう。少しだけ緊張する。ド

  キドキ、する。不安もある。

  でもきっと彼は笑ってくれる

  だろう。後に続く言葉は全く

  予想がつかないけどきっと、

  ありがとう。そう言って笑っ

  てくれる。それだけで十分だ





  気がつけばチョコを作り始め

  てからかなりの時間が経って

  いた。慣れもしないお菓子作

  りに必死になっていると時間

  が経つのがとてつもなく早い

  。事前にサッチ隊長から散々

  アドバイスをもらったけど上

  手く出来た自信はあまりない

  。でも、




  「で、きた…」

  「何が出来たって?」




  驚いて声がした方を見ると頬

  杖をついたエース隊長がにや

  りと笑っていた。なんだ、こ

  れは。夢か、なんて有り得な

  いくらい頭が働からずに口を

  あんぐりと開ける間抜け面に

  も気付けない。まだラッピン

  グもしてないし服も着替えて

  ないし、なにより心の準備が

  出来てない。




  「…え、」

  「…ん?」

  「、え」

  「ん?」

  「え、エース隊長!」





  ん?なんだ?なんて微笑むエ

  ース隊長。さあ言うぞ!と思

  ったがふと口を開くのを躊躇

  う。もし、もし隊長に拒絶さ

  れたら私はどうしたら良いん

  だろう。先程までの決意は早

  くも揺らいだ。だってもしも

  エース隊長に迷惑がられたら

  、困らす結果になってしまっ

  たら、そんなの絶対に嫌だ。

  彼に笑ってもらいたいだけな

  のに。そりゃ少し欲を言えば

  、ね。エース隊長に好きだと

  言ってもらえたら、なんて思

  うけど。



  「おい、」

  「…はい!」

  「どうした?」

  「あ、いや」

  「迷うな」

  「え?」



  迷うな。その真剣な瞳に五月

  蝿かった心臓の音は治まる。

  すっと息を吸った。



  「隊長、」

  「なんだ?」

  「好き、です」

  「おう、俺も好きだ」



  ありがとな!と彼は笑った。

  はにかむような彼の笑顔に涙

  が少し零れた。






   0214 Ace


  




              end




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