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  ひとりになりたかった。

  独りは嫌だけど、下で楽しそうに

  騒いでいる皆の中に居てもいつも

  どこか寂しくて、笑っていても空

  虚だった。それなら皆の邪魔にも

  ならないし、こうしてひとりで居

  たほうがよっぽど良い。見張り台

  の上は驚くほど静かだった。皆の

  ことは好きだ。仲間だと思ってる

  し信頼もしている。それなのに…



  全てから逃げたくて何も考えたく

  ないと静かに目を閉じ溜息を吐い

  たそんな時だった。





  「こんな所に居たのかよい」

  「…マ、ルコ隊長」





  片手にお酒のボトルを持ったマル

  コ隊長がいつの間にか壁に背を預

  けて立っていた。全くついてない

  。一番見つかりたくなかった相手

  に見つかるなんて。こっちの気も

  しらないで気の抜けた足音を立て

  ながら近づいて来る彼にふと疑問

  を覚えた。人の感情を読むことに

  長けている隊長が無遠慮に近づい

  て来るところを見ると珍しく酔っ

  ているのかもしれない。





  「…なにか用ですか?」





  落ち着いていつも通りに問い掛け

  た。酔っ払いだろうがなんだろう

  が仮にも隊長だ。ましてやこの人

  にだけは心配されたくない。





  「いつも居なくなんだろい」





  何が、とは言えなかった。あまり

  にも彼の瞳がまっすぐすぎてぞく

  りと背中が粟立つ。ゆっくりと近

  づいて来る隊長に無意識に後ずさ

  りをしたもののすぐに壁へと行く

  手を阻まれてしまう。思わず出た

  舌打ちに顔が歪んだ。





  「いつも笑ってるし」

  「…」

  「仕事も出来る」

  「、どうも」

  「疲れねぇかい?」





  どくん、痛いくらい胸が跳ねた。

  驚いた、焦った。喉がからからに

  渇いていくのを感じる。なんだ、

  この感覚。こわい?隊長が、こわ

  い?なんで、





  「わかってんだろい?」

  「な、に」

  「おまえは強い」

  「、」

  「でも、弱ぇんだよい」

  「…違う」

  「違わねぇ」

  「違うっ!」





  弱くない。弱いはずない。だって

  ずっとひとりで生きてきた。必死

  にもがいて、なのに。





  「…よわい?」

  「…」

  「わたしが」

  「…あぁ」

  「よわく、ない」





  ぽろりと涙が頬をつたった。そん

  なこと言われたら過去の私は一体

  どうしたらいいの。必死になって

  作り上げてきたのに、頑張ってき

  たのに、たった一言でそんな私を

  崩して、ぼろぼろにして、なんな

  の。なんでそんなことすんの。や

  めてよ踏み込んでこないで。






  「独りは寂しいよなあ」

  「え?」






  真っ直ぐに射る彼の瞳は痛くて苦

  しくて、なのにどこかあたたかく

  て縋りたくなってしまう。嫌なの

  に。弱さなんてとっくの昔に棄て

  たはずなのに





  「もう、良いんじゃねぇかい?」

  「…たいちょ」

  「おまえは頑張った」

  「ちが、」

  「おまえは、頑張りすぎた」





  ぎゅっと強く抱きしめられた瞬間

  時が止まった。嫌だったのに。わ

  かっていたのに。縋れば弱くなる

  。弱さを見せれば余計に弱く脆く

  崩れていく。今までそんなことば

  かり学んできたはずなのに、どう

  して









  「少しはあまえろよい」

    全部が崩れた気がした。









  「…めんどくさいんですよ、私」

  「なにがだよい」

  「独りは嫌いなくせにたまに一人

   になりたがったりとかするし」

  「ああ」

  「なのに寂しくて」

  「わかってる」

  「…そのうち嫌気がさしますよ」

  「そりゃねぇな」

  「なんで」

  「…おまえは、」









  おまえは俺がどれだけおまえの

  ことを好きなのかを知らない。









  隊長の手からお酒のボトルが滑り

  り落ち、かしゃんと音をたてて綺

  麗に割れた。力の篭った腕は痛い

  くらいでとても熱い。例え今の言

  葉とこの腕が酔った勢いだったと

  しても、私はいまとても幸せで、

  アルコールの強い匂いに酔いなが

  らまだあと少し夢を見ていたい。

  そう願いながら近づく唇を静かに

  受け入れた。




  0228 Marco


  


               end





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