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  side サッチ



  綺麗な月の夜だった。昼頃に着い

  た島はとても穏やかで海軍のかの

  字もないような平和な田舎町だっ

  た。そんな風景に張り詰めてた糸

  が少しだけ和らぐ。まあ例え海軍

  が居ようが俺は臆することなどな

  いのだが。


  久しぶりの島に各々が酒に金を注

  ぎ込んでどんちゃん騒いでいた。

  俺だってもちろん例外じゃない。

  毎度の様に連るむ仲間達と島のそ

  こそこ大きな酒場へと足を運んで

  いた。


  マルコ、エース、ビスタといった

  隊長格の奴らと飲み始め、唯一の

  女のこいつだっていつも通り楽し

  く一緒に飲んでいたはずだった。


  なのに、だ。二時間程前だっただ

  ろうか、何処からやってきたのか

  綺麗な…まあそこそこ綺麗な女達

  が相席してきたのは。それに舞い

  上がって踊り出すような馬鹿は生

  憎居ない。だが俺らは残念ながら

  男だ。悪い気もしない。そのうち

  何十分か経つと酒が回ってきてる

  こともあってか自然と会話も増し

  笑い声が絶えず零れ始める。そん

  な中、こいつが少しずつ笑みを無

  くしていく事に俺は気付いていた

  。元々人の為にと自分を殺すよう

  な奴だ。笑顔を貼り付け、振られ

  た話に相槌を打つことなどたやす

  い。


  そんな騒々しい酒場でそれはほん

  の一瞬だった。こいつの顔が悲し

  そうに歪んだ時、目線の先にはあ

  いつが、マルコが居た。












  「酔いでもしたか?」


  「…サッチ」




  外へ出てったそいつの後を追う様

  に隣に座っていた女を適当にあし

  らって店を出る。そこには座り込

  み壁にもたれかかってぼうっと月

  を見上げている彼女の姿があった

  。涙こそ流してないもののそれは

  泣いてるように見える。




  「少しだけ気分悪くて」




  ほんの少し、と慌てて付け加えた

  こいつに溜息をつきそうになった

  。こんな顔色を悪くしてまだ強が

  るのか。




  「あいつか」

  「…え?」

  「マルコだろ?」

  「…」

  「言ってみろよ」




  浮かない顔をしてそっと目を閉じ

  たこいつは小さく息を吐いて重い

  口を開いた。




  「…こわい、のかも。」




  なんにもできないしいつも迷惑か

  けてばっかり。私なんかよりマル

  コに似合う人はたくさんいる。そ

  う言って自嘲気味に笑うのを見て

  なんだかよくわからないものが身

  体を重くする。もやもやとしたそ

  れは苛立ちにも似ていた。




  「嫌なの。マルコが私以外の女の

  人に笑いかけるのも、優しくする

  のも、触るのだって嫌。笑っちゃ

  うでしょ?」


  「それならマルコにそう言やあ良

  いじゃねぇか。あいつだって、」


  「言えないよ」


  「…は?」


  「言えるわけ、ないよ。私なんか

  がマルコを縛れないもん」


  「おまえ、それは…」


  「嫌われたく、ないの」





  その言葉に出かけた言葉を大人し

  く飲み込んだ。なんでかはわから

  ない。ただこいつの不安が底が見

  えないくらいに深いのであれば、

  それを救えるのはたった一人、マ

  ルコだけだ。それに気付いた俺に

  出来ることなど何もない。




  「サッチ、だからお願い。内緒に

  してて。私頑張るからさ、」




  一体なにを頑張るというのか。こ

  いつはなにをそんなにも怖がって

  いるのか考え出せばきりがない。

  だがそんなことを考えるべきなの

  は俺じゃあない。間違いなくマル

  コの役目だ。あいつの為に俺の頭

  をフル回転させるのなんてまっぴ

  らごめんだと思考を止める。貸し

  だからな。なんて言ってやればい

  つもの様にこいつは笑った。




  「まぁ、あいつに飽きたらいつで

  も俺んとこ来いよ!」




  そんな俺の言葉に「考えとく」そ

  う答えるこいつは俺にとって可愛

  い妹だ。大切なのは確かだがそれ

  以上でも以下でもない。そんな可

  愛い妹が何故あんなパイナップル

  頭を選んだのかは解らない。解り

  たくもない。だが、マルコと居る

  こいつはとても幸せそうに笑うし

  マルコだって本当に愛おしそうに

  こいつを見る。二人を取り巻く空

  気は幸せ一色だ。そんなこいつら

  を何処かで羨ましくも思う。口が

  裂けても言ってはやらないが周り

  の奴らも少なからずそう思ってい

  るだろう。



  だから幸せでいろよ、ばかやろう



  さて。優しいお兄様がやってやれ

  るのはここまでだ。席を立った時

  に痛いくらい感じた視線を思い出

  し笑みが零れる。妹よ、あいつは

  おまえが思ってる程大人じゃねぇ

  。独占欲を隠せもしないただの男

  だよ。




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               end






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