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俺の弟は世話のかかる奴でよ。
ある夜、隊長達と店にやって来
たエースさんは珍しくお酒を頼
んだ。あまり種類は置いてない
もののその中のひとつをとても
気に入ったらしい。何杯目か飲
み終えた時少し酔っているのか
ほんのりと顔を赤くしてエース
さんは話し始めた。


俺の弟は世話のかかる奴でよ。
ほんっとどうしようもねぇ馬鹿
なんだ。いっつも心配ばっかか
けるし言うことは聞かねぇし。
…あ!いつだったかな。夜にな
っても帰って来ない時があって
よ。あん時は焦ったな。探しに
行ったらあいつ何してたと思う
?…寝てたんだよ!崖っぷちに
!あいつ能力者だからよ、海に
落ちたら助からねぇってのに呑
気に笑って寝てやがったんだ!
馬鹿だろ?いっそいで起こして
おまえはなにやってんだ!って
殴ってやったら…




そこまで一息に言い放ったエー
スさんは何か思いを巡らせるよ
うに一度口を閉じた。そっと目
を伏せ笑みを浮かべる。それは
愛しそうな幸せそうななんとも
いえない表情だった。時間にし
て5秒足らずだろう。そっと彼
はまた口を開いた。




…殴ってやったら笑ったんだ、
あいつ。俺の名前呼んでよ。見
てくれ、綺麗な花見つけたんだ
って。エース見たら喜ぶかと思
ってよ。最近元気なかっただろ
?そう言って笑ったんだよ。…
ははっ、馬鹿だろ?




他の隊長さん達は最初の内から
またかなんて言ってエースさん
の話なんか気にもせずに他の話
に花を咲かせてる。絶えず聞こ
える笑い声や食器のたてる音、
その中で私はただひとつエース
さんの声だけを拾い集め頭の中
の引き出しにぎゅうぎゅうと押
し込んだ。


素敵な弟さんですね。呟いた声
にああ、自慢の弟だと彼は小さ
な声ではっきりと答えた。















さり。






はっと目を開けるとそこはベッ
トの上だった。エースさんが処
刑されると知ったあの日から私
は毎日夢をみる。それはほんの
僅かな時間、彼らと共に過ごし
た楽しくて幸せな日々の夢だ。

床を見るとしわくちゃになった
新聞が落ちている。その一面を
飾る大きな見出しに現実を受け
入れられずにはいられない。嗚
呼、世界はなんて残酷なのだろ
う。やって来てしまった最悪な
今日に私はまた涙を一粒零す。








0429 ace






            

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