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カーテンを開けて顔を洗う。歯
を磨いて洗濯をした。一つ、い
つもと違う事と言えば朝食を作
らないという事だ。私は食事を
取れなくなった。口に含んでも
必ず出してしまう。体が受け付
けないのだ。お陰で頭はふらふ
らするし足元もふわふわする。
あの日から既に一週間が経って
いた。


きゅっとエプロンの紐を結んで
店のカウンターに入り食器を拭
き始める。ぼうっとする思考で
何処か冷静に小さなテレビの電
源を点けた。瞬間映し出された
映像に息を呑む。彼が、エース
さんがそこに居た。


手から滑り落ちたお皿ががしゃ
んと音を立てた。以前見た時よ
りも格段窶れた姿に私はただ愕
然とすることしか出来ない。傷
だらけの肌が酷く痛々しくてそ
れでも彼は生きている。その事
実がとても幸せな反面恐怖でも
あった。彼は今日処刑される。
未だ希望を持つのはいけない事
なのだろうか。世界を怨む。



そっとカウンターに手を置けば
ついこないだの様に思い出す。
エースさんは此処に居たのだ。
此処に座っていろんな話をして
たくさん笑ってご飯を食べて、
此処に、この場所に紛れも無く
存在していた。目を閉じればす
ぐに浮かぶ彼の笑顔も所詮は残
像で気休めにしかならない。そ
れが余計に悲しかった。胸が痛
い。何故彼が、








「…え?」




無意識に零れた声は小さく掠れ
ていた。彼は、海賊王の息子。
今そう言ったのだろうか。はっ
として再びテレビに目を向けれ
ばエースさんは悔しそうに、哀
しそうに俯いていた。なぜ、な
ぜ彼が処刑されなくてはならな
いのだろう。海賊王がなんだと
いうのか。例えその存在が恐怖
でしかなかったとしても私は彼
の優しさを知ってしまった。彼
に触れてしまった。彼はとても
あたたかく、眩しく、太陽のよ
うな人だった。


もし、それでも彼を裁くという
のであれば神様、貴方は一体世
界の何を見ているというのです
か?世界を震撼させるその事実
は彼にとってどれほどの重みな
のだろう。彼を知らない人達が
彼のことを、誇り高きマークの
ことを馬鹿にするのは許せない



ただの一般人である自分がそん
なことを思うのも可笑しなこと
かもしれない。それでも許せな
かった。そんなこと考えても無
力だと既に思い知っているとい
うのに。

私と白ひげ海賊団が一緒に過ご
した時間なんてほんの一瞬で彼
等にしたら島に降りる度にある
出来事なのかもしれない。私の
ことなんて忘れているだろう。
それでも私は忘れることなんて
出来ない。あまりにも彼等が好
きすぎた。



ねぇ、エースさん。ごめんね。



何も出来ない自分が悔しいよ。
でもね貴方が今処刑されようと
している大きな理由が血筋なの
だとしても私は貴方のお父さん
を恨む事が出来そうにないの。
だって、エースさんに会えたか
ら。なんて薄情だって言うかな
。お願いだから、生きて。助け
て、救って、誰か彼を赦して




懐かしい姿が見える。あの時の
店内を思い出す。笑い声が絶え
ず響き小さな店で彼等に似合わ
ない少ないお酒とありふれた料
理が所狭しと並んだテーブルの
上。笑顔で溢れていた。そんな
彼等が今揃った。戦争が、始ま
った。体が震える。怖かった。
誰も死なないで欲しい。そんな
甘い考えのままじゃ見れない。
見て、いられない。血が飛ぶ。
船が壊れる。人が倒れる。想像
を絶する映像に目の前がチカチ
カする。この戦いで生きていら
れる人が居るのか、彼等はエー
スさんは無事で居られるのか考
えると未来が真っ暗で怖い。




あまりにも無力な自分に唇を噛
み締める。血が一筋流れた。血
の、味がした。彼の笑顔が霞む
、かすむ、かす、ム







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