テニプリ×東京ミュウミュウ
□Fお見舞いに行こう
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千代子は幸村と別れて病室を出る。
幸村がせめて病院の入り口まで送って行くと言ったが丁寧にお断りした。
そこまでしてもらうのは申し訳なかった。
千代子は病院のエレベーターボタンを押してじっと待つ。
エレベーターを待つ間、先程までの幸村との会話を思い出し自然と頬が緩んだ。
チン、とエレベーターの着く音がして扉が開いたと思ったら中から一人が出てきた。千代子は慌てて表情を取り繕った。
危うくその人物ににやけた顔を見られるところだった。
下手すれば不審者に見られていたことだろう。
千代子はエレベーターに上がりこむ。
その際、降りてきた人物とすれ違うときに微かに目が合った。
『あ……』
思わず声をもわしてしまった千代子だが、次に千代子の目に入ったのは閉じたエレベーターの扉だ。
完全に閉まった扉の向こう側では、一人の人物が振り返っていたのだがそれを千代子が知ることはなかった。
幸村はベッドに寝転びながら窓際の花瓶に生けられた向日葵を見ていた。
暫く花を見つめていると、ドアをコンコンと叩く音が聞こえてどうぞ、と返事をした。
そして部屋の中に入って来たのは同じ学校の生徒であり同じテニス部のチームメートである柳蓮二だった。
「精市、調子はどうだ?」
「うん、何だか今はものすごくいい気分なんだ」
「そうか、それならいいが」
「部活の方はどう?」
「問題ない。俺たちは順調に全国に向けての訓練を進めている」
「そうか」
柳は先ほどまで千代子が座っていたパイプ椅子に腰掛けた。
そして早速と言うべきか、目敏く窓際に飾られた花瓶に気づいた柳は幸村を見た。
その様子に気づいた幸村は小さく笑った。
「可愛いだろ」
「そうだな。おそらく先ほど擦れ違った人物からだろう」
「ちょうど柳と入れ違いだったからね。やっぱり擦れ違ったんだ」
「ちょうどエレベーターの所だったんだが…やけに嬉しそうだった。今のお前みたいにな」
「そう見える?」
「それだけニヤけていたらな」
「ニヤけているだなんて酷いなあ」
「本当の事を言ったまでさ」
幸村がムッとしている間に、柳は鞄の中から紙の束を取り出した。
「ほら、今日も言われていたものを持ってきた」
「ああ、すまない。苦労をかける」
幸村は柳から紙の束を受け取るとぱらぱらとページを捲ってゆく。
ページを捲るたび幸村の表情は険しくなっていった。
「また被害が拡大しているようだね」
「ああ、三日前に資料を持ってきた時からまたさらに10件の被害が確認された」
詳細は全部そこに載っているという柳の言葉に、再び幸村は資料に視線を落とす。
その資料には怪物に襲われた人々や建物などの詳細が事細やかに記されていた。
「これはあくまで俺や青学の貞治とだけで調査したものだから実際にはもっと被害の件数は大きい」
柳の言葉にやはり幸村の表情は険しいままだ。
幸村が暫く黙々とページを読み進めていくと、やがて丸秘と大きく書かれたページに辿り着いた。
幸村は躊躇わず丸秘と書かれたページを捲る。
確かに化け物に襲われたための被害も気になる所だが、どちらかと言えば幸村はこの丸秘情報を知りたがった。
それを知っている柳は申し訳なさそうに言う。
「今回もミュウミュウについては然程掴む事が出来なかった。何せ警察側でも極秘扱いで情報が入りにくい上、謎に包まれた集団だからな」
「そのよだね」
目ぼしい情報がないと分かって幸村は落胆した様子を見せた。
ずっと気になっていたミュウミュウの存在。
その実態は神秘のベールに包まれているが実際に存在する。
一部の間では都市伝説とも囁かれているが、幸村は違った。
そう言い切れるのも、幸村は以前に一度ミュウミュウを見たことがあるからだ。
「五人のミュウミュウのうち、精市が目にしたのはミュウチョコだったな」
「ああ。たまたま化け物…キメラアニマと戦っている所を目撃したんだ」
その日の事を幸村は今でも忘れられない。
戦うミュウミュウに目は釘付けで目が離せなかった。
それからミュウミュウの事が気になって柳に頼み込んで調べてもらう事にした。
柳自身もミュウミュウの存在には興味があったのでその頼みを快諾した。
入院している幸村の元へちょくちょく調査報告を持ってくるのだ。
今日もその一環だったのだが、そうやら調査は難航しているらしい。
「柳、続けて頼めるかい?」
「ああ、もちろんだ。…では、俺はもうそろそろ失礼する」
そう言って病室を出て行こうとする柳に送っていくと声をかけたが、千代子同様断られてしまった。
柳が病室を出ていった後も幸村はもう一度始めから資料に目を通す。
「ミュウチョコ……」
少しでも君の事が知りたいから。
俺は些細な情報でも見落としたくない。
この感情に名前をつけるとしたら、おそらく……
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