白闇の書(長編)

□白哀華 第一章 
2ページ/6ページ






つい先刻帰った幕府上層部を見送った後、屯所の一室には、近藤、土方、沖田、山崎の4人が集まっていた。



幕府からの説明はこうだった。


近頃、攘夷志士らのテロが激減し、ほとんど無いに等しい。

過激派の攘夷志士の動きも、ほとんど見られない。

真選組にとってそれは仕事が少ない事であり、有難い事でもあったのだが、

幕府はその沈黙を、嵐の前の静けさだと考えた。

そして、その妙な静けさから、「近々過激攘夷志士高杉晋助が、殊更大規模なテロを画策してるらしい」という噂が流れているという。

しかし、高杉晋助は力はあるものの、鬼兵隊1つでそこまで大規模な者を起こせるかは分からず、

また、一時期春雨と手を組んでいたという噂があったが、

どうやら手を切ったらしいという噂もまた、流れているのだった。

そこで、幕府が恐れている事。

それは、高杉が他の大物攘夷志士らと手を組むという事である。


「それで、それとこの写真にはどういう関係があるのですか?」

差し出されたのは、1枚の古びた写真。しかもその写真には、血が滲んでいた。

そこに映るのは、5人。

中心に大人が1人微笑み、それを取り囲むようにして、4人の子供が映っている。

そして、彼らは全員、幸せそうに笑っているのである。

「その写真をよく見てくれ。その写真は、ある寺子屋の師弟の写真でな。その真ん中の人物は、吉田松陽だ。」

「吉田・・・松陽?」

「吉田松陽と言えば・・・・」

近藤が何か思い出したような顔をする。幕府の使いは、頷いた。

「そう、安政の大獄で処刑された奴だ。そして、この子供を見てみろ。誰だかわかるか?」

そう言ってが指されたのは、黒髪の隻眼の瞳の少年。無邪気な笑みを浮かべ、松陽に抱きついている。

近藤と土方は、首を傾げた。どこかで見たような顔だが、合点のいく人物はいなかった。


「こいつが高杉晋助。そしてこの左端の長髪が桂だ。」

「これが・・・・高杉と桂!?」

土方はもう一度写真を見つめる。

そして、指名手配犯の2人の顔を浮かべる。

確かにどこか似ているものの、同一人物だとは信じられなかった。

この無邪気な笑顔の少年と、高杉の黒い笑みとは、どうしても重ねる事が出来なかった。


「この4人は、吉田松陽の寺子屋で幼少時代を過ごした。そして吉田松陽が処刑された後、1つの事件を起こした。」

「事件?」

近藤が尋ねる。

「・・・・そう。彼ら4人は、吉田松陽が処刑された直後、その場にいた幕府の幹部、及び執行した者全員を皆殺しにしたんだ。」

「・・・・・。」

近藤が、顔を歪めた。

「たった4人の子供が・・・ですか?」

「・・・そうだ。彼らは狂ったように叫んでいた、この世界に復讐してやる、と。」

「復讐・・・・・。」

「そして後、4人は攘夷戦争にも参加した。彼らはめっぽう強くてね。

狂乱の貴公子や白夜叉、などと称されて英雄とされていた4人の話は、君達も知っているだろう?」

「あの伝説の4人が・・・この写真の。」

「・・・・それで、俺達に何をしろと?」

土方が近藤を見る。これだけ幕府が過去の話を明かすのも、珍しい事だった。

しかしそれはそれだけ、これから告げられる使命が重いものだという事であり、

今日からまた忙しくなるな、と土方は思った。

「奴等4人が万が一手を組めば、幕府にとっては多大な凶器となる。それだけは阻止したい。

よって、高杉や桂の周りの関係を探り、そしてこの写真に写る残りの2人の消息を探ってくれ。

この残り2人は攘夷戦争以降消息は不明だが、もし生きていたのなら・・・消せ。」



土方が目を細める。近藤は、ごくりと唾を飲んだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ