白闇の書(長編)

□白哀華 第二章
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「桂さん!!」

本を読んでいた桂の部屋に、部下の慌てた声が響いた。桂は本に栞を挟み閉じると、席を立つ。

「どうしたのだ。」

そこに、ドタドタと荒っぽい足音がして、銀髪の男が現れた。

男はどうやらかなりの全速力で走ってきたようで、少し息をきらしていた。

「銀時・・・・。貴様、何かようか?」

部下が慌てて駆け込んでくる場合は、大抵真選組に居場所を嗅ぎ付けられたり、くだらない悪質な攘夷浪士が騒ぎを起こした時くらいである。

しかし今回現れたのは、幕府の狗ではなく、あまりにも顔馴染みの男。

しかし、その紅い瞳には動揺が感じられて、何かあったんだなと桂はすぐに悟った。

そして、銀時がそういう顔をしている時は大抵、それが過去と関わりがある何かだという事も。


桂は一先ず話を聞こう、と銀時を自室に連れて行こうとした。

そこで、銀時の左手の紙のような物の存在に気が付く。


「あの人が・・・・・写ってるんだ。」

その左手の物を桂に差し出す。

「写真・・・・・・?」

桂が其れを覗き込む。

古びた写真。随分年数経った物なのか。

其処に写る物を捕らえた瞬間、桂は目を見開いた。

「松陽・・・先生・・・・・・・・?」

懐かしいあの人。

あの時から、何度頭に残る此の人の姿を追い求めただえろうか。

「貴様・・・・・どこでこれを!?」

天人に乗っ取られたこの江戸では、最早昔の武士や侍、及び攘夷に関わる記録や資料は、悉く無くなり、曖昧にされている事も多い。

あの人の濡れ衣だった処刑もそれに漏れず、あの人の写真も何も、残ってはいなかった。



それから先程まで黙っていた銀時は、ぽつりと呟くように、此処に来るまでの事情を話した。

その声は震えていて、今にも消えてしまいそうだった。





「それで、お前はどうしたいのだ。」

一通り聞いた桂は、改めて銀時を見遣る。

銀時の肩は、未だに震えていた。

もともと銀時は子供の頃からあまり感情を出さない。桂が初めて銀時と会った頃は、銀時は笑う事すら未だ知らなかった。

松陽の下で過ごすうちに少しずつ感情を出すようになっていった銀時。それでも、寂しいとか、辛いとか、そういう感情に関しては、

桂や高杉や坂本以外には、今でも銀時はほとんど見せようとはしない。

その桂達にでさえ、よっぽどの事でないと、自分から話したりはしなかった。

桂は、しっかりと銀時を捉え、銀時の出す答えに従おうと思った。


銀時も、何かを決心したようで、しっかりと桂に向き直った。

「高杉・・・いや、晋助と辰馬にも、見せたい。」

唯一の遺品である是れを。

あの人が最期の最期まで大事に懐に入れていた・・・・そんなあの人の気持ちを。


「そうか。それなら、今すぐ奴等を呼ぼう。まぁ、来るのは早くとも今日の夜中になるだろう。」

「・・・・いいのか?」

「・・・何がだ。」

銀時が桂を見る。そして、少し困ったように視線を逸らした。

「晋助・・・と、俺等。ほら、紅桜の時に・・・・」

…袂を別ってしまったから。

そう続ける事が出来ずに、銀時は口篭る。

桂は微笑んだ。

「何を言う。確かに『全力でぶった斬る』とは言ってやった。だが、お前は今アイツの事を、『晋助』と呼んだではないか。」

「・・・・ぁ。」

そういえば、と銀時は思った。久々に高杉に会った時、俺は奴を『高杉』と呼んだ。

しかし今俺は、確かに奴を『晋助』と呼んでいた。無意識だった。

「『晋助』と呼んだという事は、袂を別った奴ではあるまい。
それに奴も、俺達と共に同じ過去を背負ってきた。俺達は何ら変わらないからな。」

「・・・・ヅラ・・・。」

「なんだ?」

「・・・ぶった斬る宣言、撤回しなきゃな。」

「ふふっ。そうだな。」

「幕府の狗に白夜叉がバレたのなら、今戻るのは危険だ。リーダー達にはエリザベスに知らせるから、お前はここに泊まれ。」

「・・・すまねぇな。」






そして高杉と坂本に連絡を入れると、2人はまた写真を眺め、その頃の幸せだった日々に思いを馳せた。




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