白闇の書(長編)
□白哀華 第二章
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空気が重い。
万事屋から帰ってきた土方と沖田と近藤は、黙ったまますぐに屯所の奥の一室に篭ってしまった。
声をかけようとした隊士達は、3人のあまりの雰囲気に、開きかけた口を慌てて閉じた。
そしてその奥部屋では、非常に重い空気が流れていた。
そうしてしばらく無言の時が流れた。
やがてまず口を開いたのは近藤だった。
「泣きそうだった。」
沖田が少し眉を寄せた。土方が咥えていた煙草を手に持つ。
「さっきのチャイナ達か。確かに、今にも泣き出しそうだったな。」
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銀時が万事屋を出て行った後、土方達はしばらくただ呆気にとられていた。
目の前で今起きた事が信じられなかったのだ。銀時の腕っぷしの強さは、重々分かっているつもりだった近藤達だが、
それでもあの速さは、人のそれでは無いと思えた。
しかし、いつまでも呆然としているわけにもいかない。銀時の行方を探る必要もあるし、
捜索の元としていた吉田松陽と銀時達の移る写真は、たった今銀時が持っていってしまった。
状況は最悪な方向に進んでいた。
「…どういう…事ですか。」
そこに、いつもより低い声がぽつりと響いた。
「なんであんな事・・・・・・・。」
「銀ちゃん・・・・・」
新八が土方達を睨む。神楽が銀時の名を呼んだ。涙声だった。
「お前ら二人は・・・あいつの事を知っていたのか?」
「・・・・僕らは、銀さんが・・・銀さんが昔攘夷戦争に参加していたのと、白夜叉と呼ばれていた事くらいは知ってました。」
「・・・でもっ!銀ちゃん自分からは昔の事全く言わないネ!だから私も新八も触れないようにしてたアルヨ!?それなのに・・・」
「それなの・・・に・・・・」
そしてもう一度土方達を睨むと、神楽は定春を連れて万事屋を出ていく。
神楽ちゃん、と呼び止めた新八も、彼女と同じように涙声になっていて、
近藤達はこれ以上何も聞けなかった。
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言い表せぬ罪悪感が3人を渦巻く。
もし先程自分達が行かなければ、絶対に銀時が万事屋を出て行く事もなく、神楽達のあんな顔を見る事もなかっただろうに。
「それでもアレは・・・・・確かに本物の眼だった。」
本物の紅い瞳。幾度もの戦場を駆け抜けてきた男の眼。
しかしそれ故に持つ、自分達にはわからぬ程の哀しみと憎しみ。
そして去り際の銀時の哀しそうな表情。
「どうやら俺達は、触れてはいけない事に触れようとしているのかもしれないな・・・。」
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