白闇の書(長編)

□白哀華 第三章
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いつもの和洋折衷の服ではなく、桂から借りた紺色の着流しと藍色の羽織を肩にかけて、

銀時は窓辺に座っていた。

湯浴みでもしてこいと言われ、言われるままに風呂に入ると、幾分か気分は落ち着いて、

今日あった事をぼんやりと思い返していた。



あの後、神楽や新八はどうしただろうか。

真選組の奴等は、証拠品を俺が持ってきてしまったし、どうするつもりだろうか。






俺は、彼らの心を深く傷つけてしまったのではないだろうか。





そこに、桂の足音と共に、聞き慣れた2つの足音がした。

「銀時、連れて来たぞ。」

桂が襖を開け、銀時の左隣に腰をかけた。

その後から、高杉と坂本が顔を出し、腰掛ける。

以前高杉に会ったのは、鬼兵隊の船の上。しかもぶった斬る宣言をして、船を飛び降りた。

だから銀時は高杉は来ないかもしれないと思っていた。

「・・・・・・。」

少しの沈黙。

「急に・・・ごめん。」

少し俯き気味の銀時の様子を見て、高杉も坂本も、何故こんな強引に呼び出したのかと問う事は無かった。

桂が促すように銀時に肩を置くと、銀時はしっかりと二人に向き直った。


そして早速、左手に持っていた写真を2人に見せる。




「あの人が・・・処刑の際までずっと持っていた物だ。」



2人がそれを覗き込む。



「・・・こ、れは」

「まさか・・・・・」

2人は大きく目を見開く。


「この・・・血・・・」


高杉の声が震えた。

先程の銀時の様子とそっくりで、

かなり動揺しているようだった。






そこからは、それ以上俯いたままの銀時の代わりに、桂が経緯を説明した。


幕府の上層部が攘夷志士、とりわけ高杉の大規模なテロを予感し警戒を強めている事。

そして彼らは俺達4人が集結して再び刀を振るう事を恐れて、真選組に桂と高杉以外の2人の消息の調査、

及びその2人を抹殺する事を命令した事。

そして真選組はこの松陽の遺品である写真を手がかりにして、銀時が白夜叉である事をつきとめ、

松陽を「大罪人」と言った真選組に怒り銀時は写真を奪い万事屋からそのまま飛び出してきた事。




「・・・とまぁ、大体そういうわけだ。お前達を呼んだのは、銀時がお前らにも此れを見せたいと言ったからだ。」

「・・・・・・・・そうか」


「松陽先生は本当に最期の最期まで、俺達の事を気にかけて下さっていたんだな・・・」

高杉が言うと、銀時は肩を震わせた。



あの、遠い日の事が思い出されていた。




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松陽が捕らえられている時、塾生である銀時達宛てに、密かに何回か手紙が届いた。

松陽を捕らえんとしていた幕府の幹部の1人に、松陽を助けんとする者がいて、

密かに手紙を受け取り、銀時達のもとへ届けてくれていたのだ。

いつもの先生の端正な字で書かれたその文の中身は、いつも決まって同じような事がかかれていた、


『私は大丈夫ですから、安心して下さい』と。


不安で不安で、とにかく松陽先生が心配で。

それでも文が届いてその綺麗に整った字を見ると、少しだけ、安堵していた。

しかし、待っても待っても松陽は帰ってこない。


いっそ松陽のいる処に乗り込んでしまおうか。

何度もそんな話にはなったものの、もしそれは失敗すれば、結局責任を負わされるのは松陽で。

そうすれば松陽先生は殺されてしまうかもしれないから、と必死に我慢して、ひたすら帰りを待ち続けた。






しかしある時から、松陽の手紙がパタリと来なくなった。

そしてそれから1月後。

大罪人が処刑されるのだという噂を偶然耳にした銀時達4人は、直ぐにその場所へと行く。


大罪人として現れたのは、白い肌にいくつもの傷を作り、大分痩せてしまった松陽だった。


必死に彼の名を呼び、何が何でも食止めようとする俺達。

しかし、少しだけ、ほんの少しだけ間に合わなかった。

松陽は最期にこちらを向き、微かに微笑んでいた。






そして彼の首が落とされた瞬間からの事は・・・









4人共未だによく思い出せていない。








理性なんて物はもう直ぐに吹き飛んでしまった。



松陽先生が、死んだ。

目の前で殺された。

助けられなかった。


ただ何もかも信じられなくて、それでも怒りも憎しみも超え、全てを壊してしまいたい衝動に駆られて、

気が付いたら松陽を殺した者、そこにいた幕府関係者、全てを紅く染め上げていた、

そんな感覚だけ薄っすらと記憶の奥底に残っている。

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