白闇の書(長編)

□白哀華 第六章
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「それじゃあ、わしは行ってくるきに。」


桂のアジトから出て、坂本は3人を振り返って言った。

もともと4人が集まったのが夜中で、それから色々と喋っていたため、

既に夜は明けて、朝日が昇りかけていた。


「時間を忘れるなよ。」

桂が言うと、坂本は少し微笑んで頷いた。

「分かっているぜよ。…ちゃんと、戻ってくるきに。」

そう言って背を向けると、歩いていった。



「そんで、ヅラと晋助は時間までどーすんの?」

坂本を見送ってから、銀時は隣にいる2人に尋ねる。

「俺はとりあえず、坂本の用意する船への引越し準備を早急にする。…晋助もまあ、同じようなものだろう?」

そう言って桂が高杉を見る。

高杉は紫煙を吐き出して、まぁそうだな、と頷いた。


「お前は・・・・やはり行くのか?万事屋に。」

桂が問う。


「・・・・・・・・まぁな。」

銀時は、少し下を向いてから、ゆっくりと頷いた。







それは、新八と神楽に、別れを告げに行くと言う事。


ターミナルを攻める、即ち再び攘夷の道を進むという事は、

今の生活を捨てなくてはならない。

それは、国や時代を動かしていくためには避けられない道。

その道から逃れることは、至極簡単な事。

しかし、それでは大事を為す事など、到底出来ないのだ。







神楽や新八だけではない。

行き場の無い己を拾い、俺に新しい生活を与えてくれたお登勢、

時折卵焼きという名の黒い塊を持ってきては万事屋3人を何度も失神させかけた妙、

金欠仲間で、よく飲みに行ったり、パチンコに行ったりしていた長谷川さん。

その他だって、たま、キャサリン、さっちゃん…

真選組だって、何だかんだで俺の護りたい者の枠に含まれていた。



…それでも、俺は。




無実のあの人を謀殺した、忌わしい男。

そんな男が、今もこの江戸に悠々と居座っているのだとしたら。

俺はもう、何もせずにこのまま過ごしている事など、到底出来ない。









桂と高杉に背を向け、万事屋への道を歩きだす。



「・・・・・・銀時。」


高杉が、ぽつり、と呟くように呼び止める。

小さい声だったが、銀時の耳にはしっかり届いていた。

「・・・・何?」


銀時は振り返らずに訊く。






「ちゃんと、帰って来いよ。」





高杉は、またぽつりと、しかししっかりとした声で言った。









銀時は意図を理解して、高杉と桂を振り返る。




「・・・・・・・ああ。」






「・・・・必ず、帰ってくる。」





そう言って、銀時は万事屋へと足を進めた。







*-*-*-*-*-*







その銀時の背中が消えた頃に、

桂は隣を見遣った。


「・・・・・なんだよ、ヅラ。」


「・・・・・銀時が、もしかしたらそのまま帰ってこないかもしれない、とか思ったか?」


「・・・・・。」


桂の問いに、高杉は何も言わず、もう一度銀時の去った方向を見つめた。



「・・・・・・・・さぁなァ。だが奴は今、帰って来ると言った。」

高杉が言うと、桂が頷く。


「・・・・ああ。だから俺達は、銀時が今の生活と暫し別れを告げて、銀時が戻ってくるのを、待つしかあるまい。」

「・・・わかってんだよ、んな事ァ。」





そう言って2人も、準備に取り掛かった。
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