白闇の書(長編)
□白哀華 第五章
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銀時が高杉と仲を取り戻して語らっている頃、
真選組では、隊士全員に、一通りの説明が行われていた。
これから起こるかもしれない大規模なテロの話。
その主謀者だと思われる高杉晋助と、その幼馴染3人の、今まで幕府から明かされる事の無かった身の上話。
そしてその幼馴染のうちの1人が、真選組と何かと絡んでいた万事屋の主人、坂田銀時であり、
また彼は高杉、桂らと共に攘夷戦争の英雄として「白夜叉」という二つ名を持っていたという話。
どれもが、寝物語のような話であり、隊士達の顔はいささか信じられないという風であった。
隊士達にその大まかな内容を説明したのは土方で、隣には近藤が座っていた。
「・・・というわけだ。現在、その証拠となっていた写真は坂田銀時が持って行ってしまったから手元には無ぇ。」
「あの…万事屋の旦那が…」
「まさか高杉や桂の馴染だったなんて…」
隊士達は困惑気味だ。
「・・・取りあえず今は、坂田銀時の行方と、もう1人の写真に映っていた男の捜索を続けている。」
「そこで・・・・だ。・・・おい、総悟。」
土方は、先程から隊士達の一番後ろの方でアイマスクを付けて、1人背に凭れ座っている沖田を見遣った。
「監察方の人手も足りて無くてな。お前ら一番隊には、坂田銀時の捜索を担当してもらう。総悟、お前は一番隊を指揮して万事屋を見張れ。
まだ奴が消えてから時間は浅ぇ。奴の性格からすると、あのままチャイナ娘達を放っては置かねぇだろうしな。」
「・・・・・。」
しかし、沖田は黙ったまま何も答えない。
土方は眉を寄せる。
「おい総悟、聞いてんのか?」
「・・・・・俺は、嫌でさァ。」
「・・・・総悟?」
ふいに沖田が、呟いた。
表情は、アイマスクをしているせいでよく分からない。
「なんですかィ、さっきから『坂田銀時』って。まるで旦那を赤の他人みたいに。」
「総悟・・・・。」
近藤が、少し驚いた顔で沖田を見た。
隊士達も、沖田の方を向いていた。
「・・・・総悟。・・・これは仕事だ。それにあいつはもうじき、指名手配犯になる。」
土方が、少し鋭い口調で言う。
すると沖田は、アイマスクを外し、土方を睨み付けた。
その殺気とも呼べる怒りを感じた隊士達は、一瞬ビクリと肩を震わせた。
「・・・俺達に旦那の何がわかるんでィ。旦那の過去を俺達は知らない。英雄だったとか、高杉の幼馴染とか聞いたって、
旦那は今は攘夷活動に参加してはいなかったじゃねぇですかィ。・・・・それなのに。」
沖田は、再度土方を睨む。
「何も知らない俺達が首を突っ込んだ所為で、旦那は万事屋を出て行く事になった。余計な事をしたのは俺達でさァ。
それを俺達が旦那をとっ捕まえるなんざ、俺はしませんぜィ。」
そういうと沖田は、くるりと背を向ける。
「待て、総悟!!!」
土方の制止も聞かず、沖田は部屋を出て行った。
室内を静寂が包み込んだ。
「総悟・・・・・・・・。」
近藤は、悲しげな顔で沖田の出て行った襖を見つめていた。