白闇の書(長編)
□白哀華 第七章
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もう陽は落ちて、月が顔を出し始めた。
しかし新八がまだ万事屋にいる理由は、先程突如やってきた訪問者、もとい居候者の沖田がいるためだった。
もともと先刻届いた桂からの手紙に従い、近々お妙も引き連れて暫らく万事屋に住まうつもりではあったが、
今日は一先ず恒道館へ帰るつもりだった新八は、その事があって、流石に沖田と神楽を二人きりで泊めておくのは気がひけて、
お妙にとりあえず今日は万事屋に泊まるという電話を入れたのであった。
沖田と神楽は居間でオセロをやっている。
そしてその電話を切った直後に万事屋の戸を叩く音がして玄関を見遣った新八は、
まさか戸を叩いたのが自分達がずっと待ち続けていたこの家の主であるとは思わなかった。
こんな時間に、一体誰だろう。飛脚のお兄ちゃんであろうか。
そんな事を考えながら、今開けます、と言うと、ガラガラと扉を開けた。
そして固まった。
銀色の髪が、玄関から溢れ出す光に照らされて、とても明るく輝いていた。
「…ぎ、んさん・・・・・・・・」
恐らく自分の声は相当震えていた、と新八は思った。
「よう」
銀時は少し微笑んで、片手を上げた。
「入って、いいか?」
そう言った銀時の声はいつもとあまり変わりがなくて、新八は少し安堵した。
*-*-*-*-*-*
居間に入ってきた銀時に、先に気が付いたのは神楽だった。
オセロをしていた神楽が玄関の方を向き、目を見開いた。
それを見た沖田が神楽の視線の先を追い、同じように驚いた顔をした。
「銀ちゃん・・・・・」
いつもよりか細い声で呟くと、神楽は銀時に抱きついた。
「お帰り、銀ちゃん」
「ん、…ただいま、神楽。」
銀時がそう言うと、神楽はホっとした表情を浮かべた。
それを見た新八も、胸に手を当てて安心した顔をしていた。
しかし、抱きついてきた神楽の頭を撫でていた銀時は、スッと顔を上げると、少し目を細めた。
それを見た新八が、ビク、と怯えた顔をする。
「銀さん、あ、あの、沖田さんはですね…」
「こんばんは、旦那。上がらせてもらっていやす。」
慌てて説明をしようとした新八の言葉を遮って、沖田は右手を挙げ挨拶をした。
新八と違って、いつもと変わらず間延びした声だった。
「沖田君・・・・・・。」
銀時が沖田を警戒するのは、当たり前の事だった。
そもそも銀時が万事屋を飛び出した理由は、真選組の3人の追窮が発端なわけであり、
沖田は銀時を捕まえる、もしくは斬ろうとする立場にある人間である。
しかし銀時は睨むでも無く、警戒を剥き出しにするでも無く、暫らく沖田をじっと見つめていた。
その澄んだ眼に見つめられ、沖田は全てを見透かされているような気持ちになった。
同時に、沖田の戸惑いや苦悩を全て見抜いていた近藤を思い出し、やっぱり近藤とこの人は、似ている物を持っていると思ったのだ。
そして自分はそんな二人に、心底なにか惹かれる物がある、そう改めて確信した。
「今日、此処に泊めさせてもらう事になりやした。」
そう言ってペコリと頭を下げると、沖田を見つめていた紅い瞳は何かを悟ったようで、
「うん、分かった。」
そうだけ言うと、それ以外の事情を一切追及しなかった。
新八も神楽も、心底驚いて、2人を交互に見ていた。
「それはそうと、お前らメシはもう食ったのか?」
もうすっかり沖田の居候については了承したようで、銀時は3人に尋ねた。
「い、いえ、まだ食べてません…。」
新八が答えると、銀時はそっかと言い、台所へと向かう。
「今日は俺が当番だからな。好きなの作ってやるよ。」
そう言って男物のエプロンを付け、腕捲りをした銀時に、神楽の表情が和らいだ。