白闇の書(長編)
□白哀華 第八章
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街灯の光が、夜の闇を照らす。
夜こそ賑やかな歌舞伎町と言えども、昼日中のように明るいのは大通りに面した道だけだ。
大通りから1つ道を外れれば、住宅地の多く連なる暗い通りに出る事も珍しくは無い。
万事屋から出て、己の取り戻した帰る場所へとゆっくり足を進めていた銀時だが、
小さな橋にさしかかった辺りで、そっと足を止めた。
辺りは人通りの少ない住宅街であり、銀時の渡っていた小さな橋の下で流れる川が静かに流れる音だけが響いている。
銀時はそっと橋から川を覗くように体を傾けたまま、ふいに、ぽつりと呟いた。
「いつまで付いて来るのかな?」
独り言の様に聞こえる声音。
しかし、ふいに物陰から、1人の青年が姿を現した。
「さすが旦那でぃ。」
「俺が気付いてる事にも、気付いていただろう、沖田君?」
「そりゃあ、そうですがね。」
沖田が少し笑みを浮かべた。
「そんで、何で俺の方について来てんの?沖田君はきっと、神楽達を慰めてくれるつもりだろうと思ってたんだけど。」
「…だから、俺を追い出さなかったんですかぃ?」
「そういうわけでも無いけどな。」
今度は銀時が微笑む。
しかし神楽達に別れを告げた後だからだろうか、沖田の目には、どこか寂しさを孕んだ表情に見えた。
「旦那と、二人きりで話がしたかったんでさ。」
「・・・何それ、俺を口説くつもり?」
「まさか。」
そんなんじゃありやせん、と沖田は首を振った。
「尋ねたい事があるんでさぁ。」
「・・・だろうねぇ。」
銀時が、はぁと溜息をついた。
急に行方を晦まし、帰って来たと思ったら、万事屋を解散させ、己が大事にしていた子供2人に別れを告げた。
何処に行くのか、何をするつもりなのか。
真選組隊長としても、また沖田自身としても、尋ねたい事だらけだろう、と銀時は思っていた。
「少しくらい、答えてやってもいいよ。」
銀時はそう言うと、川にやっていた目を一瞬、亜麻色の髪を持つ青年の方に向けた。
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