白闇の書(長編)

□白哀華 第九章
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銀時が帰ってきたのは、日の出の少し前だった。



見張りの部下に一声かけて、桂の持つ1つのアジトの中へと入る。

アジトと言っても1つの小屋である此処は、建物自体は古いものの小さな庭が有り、

桂がよく手入れをしているせいか、其処には小さな池に盆栽まであった。

よく真選組等に見つからないものだと銀時は思うが、それが却って軒を連なる住宅と同化しているのかもしれない。





音を立てずに庭から中に入ると、そっと襖を開ける。

薄暗い部屋に敷かれた4つの布団。

そのうちの3つに高杉、坂本、桂の順番で寝ており、桂の隣の布団は綺麗に整ったまま、空いている。

(俺の寝る処ってわけかい)

銀時は息を吐き、頬を緩めた。


真っ直ぐ仰向けで寝る桂。

その隣でガバっと両手両足を開いて眠る坂本。

そしてその坂本の右足が腹の上に乗っかり、眉を寄せたまま眠る高杉。

「…なんだか、懐かしいもんだねぇ。」




変わらない、というのは嬉しいものだ。

そう思った銀時はまた息を吐くと、用意されている布団にもぞもぞと潜り込んだ。





「…ただいま、晋、ヅラ、辰馬。」


そう呟いて、ゆっくりと目を閉じた。





















銀時が目を覚ましたのは、もう昼近くになってからだった。

着替えて寝室を出ると、遅めの朝食をとってる3人が、つと銀時の方を見た。

「おう、銀時。おはよう。」

「ん、おはよ。」




「・・・あと、お帰り。」

「ん。・・・たでーま。」


寝癖頭をぽりぽりと掻きながら、銀時は坂本の隣に腰を降ろした。

3人は、安心したような顔をしていた。


「思ったより、早かったの。」

「…まぁな。てめえ達こそ、準備の方はどうなんだよ。」

銀時が味噌汁を啜りながら尋ねる。

「うむ、俺の方は順調だ。あとは坂本の舟の用意が整い次第、引っ越せそうだ。」

「…俺の方はもともと舟だからなァ。京の方の物も、河上に任せてるから、もともと大した準備は必要無い。」

高杉が茶碗片手に御飯を咀嚼しながら言うと、桂がメシを食いながらしゃべるなと高杉を睨んだ。

うるせえ、と睨み返すと、高杉は手を合わせご馳走様といい、茶碗を運び始めた。

高杉がきちんとご馳走様を言い食器を運ぶのは、

幼少の頃に、松陽が食事の作法をしっかりと教えこんでいたからだった。




「それで、辰馬はどうなの?」

まだ食べている銀時は、辰馬に問いかけた。

「舟は用意出来たぜよ。取りあえず適当に買っただけじゃきに、おんしらの望み通りの舟にこれから改築し通せ。」

「ほう。楽しみだな。」

「それで、快援隊はどーすんの?」

「…勿論、全員わしらに協力してくれるぜよ!」

坂本は、アハハハ、と乾いたように笑った。

「そっかぁ〜。んじゃ、そろそろ引越しってわけか。」

「そうじゃ。銀時は今日にでも舟に移ったらどうじゃ?」


坂本がそう聞くと、銀時は少し考えてから言った。

「そうしたいのは山々なんだけどぉー。今日はちょっと野暮用があるからパス。」

それを聞くと、茶碗を持っていた桂と坂本、食器を運び終えた高杉が銀時を見る。


「…野暮用とは、なんじゃ?」

坂本の問いに、銀時は「んー、」と少し唸って、そしてぽつりと言った。

「ちょっと、逢瀬のお約束が」

「誰とだ」

「真選組の…」

言い終わらないうちに、高杉が銀時に詰め寄り、銀時の喉に腕をかけた。

「どういう事だ、銀時ィ。」

地を這うような声で、高杉は銀時を睨みつけける。

「どういう事って、そーゆー事。…て事でしくよろ☆」

銀時は全く悪びれもせず、茶を啜る。

「きっちり説明してもらおうじゃねーか…」

「痛たたたッ!晋助!首絞まるッ!!」

「吐け。なんで其処まで真選組に構う」

「構ってねぇよ!…てか吐く!喉から別なモン吐いちゃうから話せ晋!!」

坂本と桂は、やれやれといったように肩を竦めてみせた。



「真選組の、沖田総悟君だよ、壱番隊隊長の。」

「…ほう。真選組随一の剣豪か。」

銀時が言うと、桂はふむと手を顎に当てた。

「俺らにとっちゃ剣豪じゃねーだろ」

高杉は、ふん、と不機嫌そうに腕を組んでいる。

「その沖田君に、頼みごとをされまして。んで、それについて話してる途中で見廻りの真選組隊士が近づいて来てるのに気付いて。

沖田君の頼みについては、お前らにも説明しとかなきゃな、と思って、改めて今夜また会って話す事になりました。」

銀時がふと微笑む。何かを思い出し、何処か楽しそうな銀時。


「随分、気に入ってるようだな。」

銀時はニヤリと笑ってみせた。


「なぁ」

「なんだ?」







「沖田拾っていい?」



3人が顔をひくりと引き攣らせるのが解り、銀時は更に面白そうな笑みを浮かべた。
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