白闇の書(長編)

□白哀華 第九章
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昨夜戻ってきた桂のアジトである古小屋の廊下を、スタスタと歩く。

流水紋の着流しは、万事屋を飛び出したその時から着ていない。

先程箪笥の中から引っ張りだした桂のものであろう淡い紺色の着物を緩く着こなし、

玄関に着くと、同じく桂の下駄を足にひっかける。

すると間もなく、後ろから呼び止める声がして、銀時は振り返った。

「待てや、銀」

「なーに、晋助。」

ドスのきいた声で銀時を呼び止めた高杉の顔は物騒極まり無い。

その後ろから桂と坂本も姿を現した。


「言ったでショ。これから沖田君とデートなの。」

「デートというか、お持ち帰りの方じゃないいがか?」

「妙な言い方をするな辰馬」

坂本の頭をぺいっと叩くと、桂は銀時の全身を見渡す。

「俺の着物か。なかなか似合っているな。」

「…そうか?丈がちょっと短いけどな。」

「それは仕方あるまい。」


んじゃ、行ってきまーす、と片手をひらひらと揺らし3人に背を向け、銀時が玄関の扉に手をかける。

「だから、待てっていってんだろうがァ!」

高杉が地を這うような声で銀時の首元に刀を突きつける。

アジトで見張りをしていた桂の部下が、ひいと声をあげた。




「俺も行く」

高杉が、低い声でそう言うと、坂本がおお、と手を叩く。

「面白そうじゃな。わしも行くぜよ!」

「…あのねぇ。お前達行くと色々ややこしくなるかもしれねぇだろ。」

銀時が溜息を吐くと坂本は、そうかのう、と残念そうな顔をした。

「確かに、どうにも人目を惹く男達が連れ立って歩いていたら、直ぐに通報されて狗が寄ってくるだろうな。」

「人目を惹くか?俺達。」

銀時が問うと、桂は力強く頷く。

「俺は変装のプロだが、高杉は歩くだけで女から視線を集めるし、

坂本は逆に自分から女の方に行くだろう。」

「なんか酷いぜよ、ヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ」




「…俺が行く」

「・・・。」

「・・・晋助ぇ、俺達の話聞いてた?ていうか“俺も行く”から“俺が行く”に変わってるしよぉ。」



銀時の言葉を無視して、高杉はふんと鼻を鳴らした。

「真選組の剣豪。俺が、見定めてやらァ。」

「・・・おおっ」

高杉が妖艶な笑みを浮かべると、坂本が再び面白そうに声をあげた。






桂と銀時は顔を見合わせ、溜息をつく。




「こうなったらもう、絶対言う事聞かねぇもんな、晋助は。」

「わしも行くきに、心配は要らないぜよ☆」

「益々心配だ」

「もう成るようになるか。…いいよ、おめぇら二人で行ってこいや。」

「本当にいいのか?」

桂が心配そうに尋ねる。

「沖田君にはもう、俺が攘夷に戻る事もはっきり見破られてるしね。」

「…なんだかんだで、お前も楽しんでるな、銀時。」

「まぁね」

銀時は履いていた下駄を脱いで、玄関にあがると、坂本と高杉の肩を叩く。






「もし奴の事気に入ったら、奴の望み通り一緒に帰ってこいや。」




「了解ぜよ。」

「其れ相応の器ならなァ。」




こうして坂本と高杉は、待ち合わせの橋へと向かった。




「俺達はゆっくり、茶でも飲んで待っているか、銀時。」

「甘味付きで。」

「もう夜だ。寝る前の夜食は体に悪いぞ。」

「お前は俺のかーちゃんか」

寝静まった夜の街へと消えて行った坂本と高杉を、アジトの外まで見送っていた2人は、

そうしている間に茶の準備を整えた部下に礼を言うと、家の中へと戻った。
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