白闇の書(長編)

□白哀華U 第一章
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_____宇宙艦隊春雨戦艦内。




ドゴォォン、という壁の破壊する音が、静かだった艦内の廊下に響き渡る。


壮大な戦艦の一室が破壊されたところで、大きな支障があるわけでは無いにせよ、

毎日起きる強烈な破壊音に、その音の発生源のある一室の近くにいる者は、日々悩まされていた。






その轟音の一室にゆっくりと足を進めた男は、部屋まで辿り着くと、既にドアの機能を失った

くにゃりと曲がっている鉄の扉を、蹴り上げることで一掃した。







「おうおう、今日はまた一段と機嫌が悪いなぁ、我等が団長さんはァ。誰が後始末をするのかを考えてもらいたいものだぜ、ったく。」

「…阿伏兎。」




部屋に足を踏み入れると、春雨第七師団の長である、明るい色の髪を三つ編みで一つに結った男が振り返る。

いつものように、感情を読み取らせない、爽やかな笑顔である。

しかし、彼の纏う空気が、彼が非常に不機嫌であることを如実に語っている。

「今日ドアを破壊したのは阿伏兎だろ?俺は少し蹴っただけだよ。」

「何でも少しで済めば、修理代も食費代もこんなに引かれねェんだけどなァ。」

呆れるように溜息をつくと、阿伏兎はひっくりかえされたテーブルを直す。

「それで。今日の甚だしく不機嫌な理由を聴かせてもらうとするかねェ。」

神威は直されたテーブルにひょいと腰かけると、わかってるだろ、と変わらぬ笑顔で呟いた。







「つまらないんだよ。」




「…それァ、この春雨での生活がって事か」

「…そう。…知ってるだろ?あのアホ提督、軟弱な地球の幕府と手を組んだんだよ。」

神威の言葉に、阿伏兎は先日突如、春雨と幕府が盟約を結ぶことになったという阿呆提督の報告を思い出す。

急激な攘夷志士勢力の拡大によって、幕府は今危機に晒されている。

由って此の宇宙海賊春雨が戦力を幕府に差し出す代償として、地球での非合法薬物の密売の拡大を黙認するという盟約が結ばれたのだ。


神威は弱い者には、興味を示さないことを阿伏兎は熟知しているし、

近頃は団長という立場により、神威自身が戦闘をする機会が極端に減ってきていることも分かっていた。

またそろそろ神威の堪忍袋の緒も切れる頃であり、そうすれば春雨艦内を暴れ回りかねないと阿伏兎は思っていたのだ。




「なァ、団長さんよォ。その件で一つ、アンタが喜びそうな話があるんだが」

「…へェ、どんな話?」

神威のひょこっと立っている一束の髪が、アンテナのようにピクリと動いた。

「幕府が春雨と手を組むまでして恐れる攘夷志士の中心が、どうやら4人程いるようでな。

その中に、アンタが気に入ってた獲物さんの名前が挙がっているみたいだぜ。」

「…獲物…侍…。もしかして、あの銀髪のお兄さん?」

「ああ。坂田銀時、だったなァ。」

「!」

ピク、動いていた髪が動きを止める。

「そう考えりゃ、春雨という立場からあの男と殺り合うことができると思わねぇかい、団長さんよォ。」





「…へぇ。…それで?」

テーブルに腰かけ、足をぶらぶらと揺らしていた神威は、顔を上げ阿伏兎に期待の目を向ける。

「なかなか戦闘許可の下らない俺があの侍のお兄さんと戦えるために、どういう作戦を立ててくれたんだい?」

神威の言葉に、阿伏兎はふっと笑みを浮かべてみせる。






「もう既に手は打ってある。今日明日にでもいい知らせがくるだろうよ」
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