白闇の書(長編)

□白哀華U 第一章
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____一方、吉原桃源郷。







「…おかしいだろ、コレ。」


「…う、うむ。確かに、おかしいぞ。」








高杉と桂、両者の顔は青褪めていた。

高杉は包帯で隠されていない右目を擦り、再び目の前の状況を確かめる。





状況と言うより、惨状か。

立ち尽くす二人の目の前では、質の良さそうな派手な着物を身に纏った女達が踊っている。



それ自体は、決しておかしい事では無い。何故なら、此処は宴の席で有り、

此の宴は自分達のために催されたものだからである。




加えて、高杉は宴が嫌いでは無い。寧ろ、京に身を潜めていた時ですら、時折屋形船を貸切り催していた程に、好きな部類だった。

其れは、ついつい酒を多く飲みすぎてしまう宴に於いて、相手の本性を探ったり、

情報の1つや2つを得るのに適しているという面で気に入っていたのもあるが、

他方で、もともとただ純粋に、祭りや酒宴のような催し物が好きだったという面もある。












しかし、問題は其処では無い。
















踊っている女達の顔が…廃墟なのだ。


















「なんで俺達ァブス女集団に囲まれて酌されなきゃいけねェんだァァァ!!!」













高杉が目の前のテーブルを蹴り上げる。

上に置いてあった酒のボトルやグラスが揺れ、びちゃっと音を立てて零れる。

何時もならその隣りにいる桂が、行儀が悪いと一喝するところなのだが、

桂もまた、目の前の惨状に頭が付いて行かない様子でぼうっとしている。






「どういう事だ銀時ィィ!!」

「んー?だって此処、『ブスッ娘クラブ』だからねぇ。廃墟を楽しむお店だからねぇ。」


そう言い酒を飲む銀時の周りにも、廃墟と言う名の顔を持つホステスがうじゃうじゃといた。

しかし何故かちゃっかり、銀時の両隣りに座っている女達だけは、稀に見る別嬪の女だった。




「なんでお前だけ美女に囲まれているのだ銀時!!」

「う〜ん、モテるから?」

「わ、わっちは日輪に頼まれた故仕方無く酌してやっているんじゃ。勘違いするな」



銀時の左隣に座っていた美女、もとい月詠がぺいっと銀時を叩く。

それを見た右隣に座っている美女、もとい吉原一の遊女、日輪はツンデレねぇ、と笑っている。





「ここのクラブは、異色なだけあって、吉原の中でもわりとお金のかかるお店なのよ。」

「美女なら吉原には何処にでもいる。わざわざ稀有な店を日輪が選んだのじゃ。」

酒を注ぎながら、月詠と日輪が言う。





「何故態々その稀有な店をチョイスしやがった。」

「あら。これから暫らく吉原で暮らすんでしょ?毎日美女ばかりというのもつまらないものだろうと思って此処を選んだのよ。」

「いや、俺はなんかトラウマになりそうだ…。」

桂が座り込みうんうんと唸っている。







高杉は溜息をつくと、女達を搔き分けて、無理矢理日輪と銀時の間に押し入り座った。

銀時が横暴だなテメェ、と呟いた。



「大体なぁ晋助。世の中には整ったビルより崩れかかった廃墟や得体の知れない洞窟に美を感じる男だっているんだぜ?」

「意味わかんねェよ」

「まぁ俺もわかんねぇけどよ。だが見ろ。辰馬は結構そっちもいけるらしいぜ?」




銀時が指をさす方へと目を遣る。坂本が両脇にブスッ娘クラブのホステス達をはべらせて歌っている。

すっかり酔っていて、女の顔もあまり判別できていないのだろう。








「そう言えば銀さん。あの可愛い美青年君を見ないわねぇ。」

「あぁ、沖田君のこと?」

銀時が少し困ったようにポリポリと頭を掻く。

「奴なら、自分好みの店に行ったさ。」

「おい銀時。これから吉原で過ごすのに、大丈夫なのか、あの男は。」

暫らく唸っていた桂が復活し、銀時に尋ねる。


「…吉原のドS王くらいにはなっちまうかもしれねぇな。」

高杉と桂は再び青褪めた。
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