白闇の書(長編)

□白哀華U 第一章
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銀時達が吉原桃源郷で過ごす事を決めたのは、半月程前の事だった。







二ヶ月前、高杉と坂本が沖田を連れ帰った後、間も無く5人は坂本の用意した舟に乗った。

もちろん、空に浮く宇宙船で、名義上は快援隊の舟だ。。普段の快援隊の舟程大きくは無いが、丁度良い大きさである。






しかしその舟に移って一ヶ月も経った頃。

高杉、銀時、坂本、桂、沖田は会議を開いていた。

新しい船での生活に銀時達の部下も慣れてきたので、銀時達5人の滞在する処を一度地上に移すためである。

それは、地上に滞在した方が情報を得る事も、指示を出すことも迅速且つ正確にできるのではないかという銀時の提案による。


しかし実際のところ、理由はそれだけでは無い。









船内の六畳程の狭い和室で、銀時と高杉は胡坐をかき茶を飲む。

その隣で正座をした桂が湯呑をことりと置いた。

沖田はお気に入りのアイマスクを付け睡眠中だ。


坂本はというと、和室に付いている厠から碌に出る事もままならない。



「…どうすっかね、これ」

「…どうしようもねェなァ。」

「どうもこうもあるまい…。」

滞在場所一時変更の理由、それは。





.........坂本の船酔いだった。



元より銀時達は坂本が船を溺愛しながら船に弱いという事実は知っていた。

とはいえ、坂本の一日の時間の半分は厠との睨めっこであり、

高杉が取り寄せたよく効くという酔い止め薬は、半月程坂本の酔いを抑えたものの、

それ以降はその薬に身体が慣れてしまったのか、効果が無くなってしまった。







すす...と小気味悪い音をたてて和室に戻ってきた坂本は、

呆れた目を向ける高杉と銀時にはは、と力なく笑ってみせた。





「いやぁ…船酔いに慣れちゅうわしにも、この船はちょっくと、キツすぎる気がするぜよ…。」

「内装も外装も、大した船なんだがなァ。」

「それに、安物ってわけでもないだろ?」








「呪いだ…」

ポツリと呟く桂に銀時が肩を揺らす。

「此れはあれだな、絶対何か憑いているに違い無い…」

「おい、つ、憑くってなんだよ。幽霊ならアレだぞ?俺、お岩の元で少しは克服したかんな。別に怯えねぇぞ?」

「それが毎晩のように寝れなくて人を起こす奴の言葉かてめェ。」

「五月蠅ぇよ。兎に角、一旦俺達地上に行かねぇ?」

銀時の言葉に、3人はううんと唸る。

「この船は愛しちょるんじゃけどのう…」

「…仕方ねェか。」

「この船には陸奥殿もいるからな。…だが銀時。地上と言っても、恐らく俺達は今江戸で、嘗て無い程警戒されまくっている。

さすがに俺や高杉のアジトでも動き難くなるのではないか?」

「沖田も連れてくんじゃ、犬にもすぐ嗅ぎ付けられるかもしれねェしなァ。」

そう言って高杉はちらと沖田に目を遣る。

アイマスクを付けたままなので表情は読みにくいが、微かに口を尖らせている。



銀時は手を顎に当て暫らく考えていたが、ふいに顔を上げた。

「長く滞在は出来ねェかもしれねぇけど、一箇所、早急に俺達を休ませるくれぇはしてくれるかもしれねぇ所がある。」



















*-*-*-*-*-*















銀時は指名手配犯で有りながら直々に堂々と吉原へ出向いて日輪に会いに行った。







桂が変装していた法師の格好で百華の前に現れた銀時に一瞬警戒を見せた百華達だったが、

銀時がつと顔を見せると、直ぐに月詠のもとに通されて、日輪と対面する事が出来た。




治外法権で幕府の手のまわりにくい吉原であれば、銀時達にとっては都合の良い場所だが、

それでも現在幕府が血眼になって探す銀時達大物指名手配犯を滞在させるというのは、

たとえ銀時が夜王や地雷亜から吉原を救った救世主と贔屓にされているとしても、難しい事だろうと銀時は考えていた。











しかし、顔パスで容易く日輪に会えた上に、日輪はまるで銀時を待っていたとでも言うように大層喜び、

快く受け入れを許可してくれた。

しかも少しの間では無く、吉原を本拠としても良いとまで言われたので、思わず銀時は聞き返してしまった。



「地上のニュースとか、此処ではどれだけ広まってんのか知らねぇけど…。俺達今、幕府が探しまくってる指名手配犯なんだけど…。」

「何を言っているの銀さん。其れは地上の話だわ。

私達遊女達にとってみれば、銀さんは救世主なの。何かお返しをしたいと思っていたから、丁度良いわ。」

「月詠、お前もいいのか?」

「遠慮とはぬしらしくないな。日輪が良いと言っとるんじゃ。

それに、もともと吉原にはそういう訳有りの者も多く潜んでいる。ぬしらが来たとて、あまり変わりはしないじゃろう。」

「そうと決まれば早速準備をしなくちゃ。歓迎の宴も開かなくちゃね。」

早速準備をすると指示を始めた日輪に、銀時は暫し呆然と日輪を見ていた。

隣で煙管に口を付けていた月詠が、その間の抜けた顔はなんじゃ、と尋ねる。

銀時は少し微笑むと、別にと呟く。

「…いや。…ただ、何処かのばあさんにどことなく似てると思っちまっただけだよ、日輪が。」

「…婆さん?」

それは日輪の容姿の侮辱か、と渋い顔をしている月詠に違うと答えると、銀時はそれでは一度帰る、と踵を返した。









万事屋の一階で、いつも家賃家賃と五月蠅く、でも誰より心の広い女。

行く宛ても無く彷徨っていた自分を拾い、居場所を作ってくれた女。

お登勢も日輪も、懐の広い女だと銀時は思った。







そして、無事吉原へと辿り着いた5人は、ブスッ娘倶楽部にて厚い歓迎を受けることになったのである。
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