白闇の書(長編)
□白哀華U 第一章
6ページ/8ページ
銀時達がこれから暫らく住まうことになる部屋へと日輪と月詠に案内された後、
まもなく坂本は大の字になって寝てしまい、桂が坂本を引き摺って布団に放り込んだ。
高杉と銀時が更に飲もうと酒を持ち出してきたので、
一応未成年である沖田は、風呂に入ることにした。
脱衣所で着物を脱ぎ、腰に差した刀を壁に立てかけようとして、ふと手を止める。
多くの攘夷浪士を斬ってきた刀。
真選組を護るために。
近藤を護るために。
目の前の敵を斬る。
一瞬の迷いが命取りとなる職業故に、迷う事は許されない。
だから、迷いなど無いと信じて、ただひたすら護ろうと必死だった。
けれど、自分は迷った。
護るための手段として、人を斬る事に。
そして斬る事が真に、己の護りたい物を護ることに繋がるだろうか、と疑念を抱いた。
今のままでいいのだろうかと悩み、その答えを出すためには、
まだ自分が余りにも無知であると悟った。
鳳仙亡き後、吉原の仕組みは大きく形を変えた。
遊郭が無くなり、遊女達が吉原に留まる事を強制されなくなった事がその大きな変化の1つだ。
そして、その吉原という街を、今まで不遇を受けてきた遊女達も居心地良く過ごせるようにと中心となり動いているのが、
吉原一の花魁である日輪と、それを支える自警団百華の頭である月詠だ。
しかし、根本的な問題はまだ解決に至っていない。
楼主鳳仙を倒したのは紛れも無く月詠達と銀時達であるが、
その場に居合せた神威が鳳仙を殺したのは自分であると春雨に申し出た事から、春雨は神威を新たな吉原の楼主としたのだ。
今は神威が無干渉のため、吉原は事実上春雨に拘束される事無く安穏を保っているが、
この先どうなるかは分からないのだ。
そして、先行きが分からないのは吉原だけでは無い。
現在巷を騒がせているのは、そう遠くない内に、江戸で幕府と攘夷志士の戦争が勃発するのではないかという噂だ。
民衆の噂を煽ったのは、新たに2人の指名手配が公表されたことだった。
宇宙貿易会社海援隊の社長、坂本辰馬。
江戸で自営業を営んでいた、坂田銀時。
2人についての詳細は公にされなかったものの、坂本は有名な海援隊の社長として名が通っていた。
その坂本が攘夷に寝返ったとあれば、それは幕府にとって大きな痛手となる。
更に、その報道に奮起した攘夷浪士達が、坂本と銀時の攘夷戦争時の活躍を、
多少事実は含まれてはいるが捏造を多く加えて巷に噂をながした事により、
民衆の中でも、
攘夷側と幕府側に、意見が分かれてきていた。
江戸は混乱状態に陥っていた。
そしてそれを収集するのですら精一杯になってしまった幕府の上層部の天人官僚の決断により、
江戸幕府は春雨と手を組む事になったのだ。