白闇の書(長編)
□白哀華U 第一章
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風呂から上がり、質の良さそうなタオルでわしゃわしゃと髪を拭いていた沖田は、
高杉や銀時達が飲んでいるだろう部屋へと向かった。
襖を開けようと手を伸ばしたところで、部屋から零れ出た声にふと手を止めた。
その声の主が日輪だと分かり、日輪と銀時が対話していることに気付くのにそう時間はかからなかった。
「…そりゃあ驚いたわよ、銀さんが急に指名手配されたんだもの。神楽ちゃん達は大丈夫なのかとか、銀さんは今どこにいるかとか、月詠も私達もずっと心配してたのよ」
日輪はそう言うと、くすりと笑ってみせた。
「しかも過激派攘夷志士として有名だった高杉晋助と一緒に攘夷を企んでいるなんて報道されるんだもの。」
銀時は、くるくると手に持った杯を回していた。
「本当に、すまねぇなぁ。心配かけた挙句、俺達の寝床まで貸してもらってよ。」
「あら、むしろ大歓迎よ。それに高杉さんも、噂と違ってとてもいい男じゃないか。」
「あいつは昔からもてんだよなぁ。全く。」
銀時は溜息をつくと、酒に口を付ける。
日輪は再び微笑むと、銀時をじっと見つめた。
「大切な、家族なのね」
ふいに、日輪が呟くように言う。
銀時は顔を上げた。
「銀さん、桂さん達と一緒にいる時、とっても優しい顔をしているじゃない。
銀さんのあんな顔、見たことが無かったわ。」
「・・・・・。」
日輪の穏やかな声音が、しんとした部屋に響き渡っていた。
銀時は、暫し沈黙する。
思い出されるのは、少し前のあの夜のこと。
“大事なものを、1つ取り戻したんだ”
“もう二度と、失いたくねぇんだ”
何故自分達を置いて行ってしまうのか、と縋るような眼で己を見つめる子供達に
己が告げた理由。
背を向け万事屋を後にした銀時を、神楽も新八も追ってくることはしなかった。
あれから二人はどうしているだろうか?
証拠となる物は残していないとはいえ、自分が指名手配犯である以上、
絶対の安全を保障するのは難しい。
それを解っていてもなお、銀時は修羅の道を選んだ。
一度は袂を別った高杉や、長年共に生きてきた桂や坂本と共に行く復讐の道。
選択に後悔などしていないし、している様では未来は無い。
桂、坂本、高杉。
3者とも自分を最も理解し、
最も自分と近しい道を辿ってきた。
「日輪よォ」
暫らくの沈黙の後、そっと顔を上げた銀時は、
先程と変わらず優しく微笑んでいる日輪を見つめる。
「家族ってのは、いいもんだな」
銀時の言葉に、日輪は穏やかな顔をしたまま、すっと目を細めて笑う。
「私もそう思うわ、銀さん」
そう言って、再び酌をする日輪に、銀時は微笑んだ。
銀時には、桂達が。
日輪には、月詠や清太が。
血族的な繋がりは無い、
自分達の大切な家族。
夜が明け、吉原に太陽が昇る頃まで
日輪は銀時の杯にそっと酒を注いだ。
「家族、か…。」
その部屋の外で、沖田は静かに小さく呟いた。
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