資料室

□溢れし憂い
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俺はずっと信じとった。


いや…信じたかった。


俺とお前の関係は壊れることなんてないって――…。










「真太郎 俺コーヒー淹れるな」


彰が席を立ってそう言った。


「ありがとうございます」


「ブラックでえぇ?」


「はい」


真太郎が笑顔で頷く。




「フンフ〜ン♪」




鼻歌を歌いながら彰はキッチンへと向かった。




コポコポ…




お揃いのマグカップにコーヒーをゆっくり注いでいく。



「ふふ…」



今日はこのまま真太郎が俺んちに泊まる…!


真太郎とはキスまで済んだし…そろそろもう一歩進んだ関係にならんと。


向こうもきっとそれなりに期待しとるやろうしな…。



彰は淡い期待を胸に、鼻歌を歌い続ける。





コーヒーを淹れ終え、真太郎の待つ部屋に戻った。



「真太郎 お待たせ…」



「せやから…今日は彰の家に泊まりに来とるんですって」


真太郎が誰かと話している声が聞こえた。


「前から約束してたんですから無理ですって」



電話しとるんかな…誰とやろ…。



「悪いけど今日は信人くんとは…」



電話の相手は信人くん…か。


真太郎を遊びか何かに誘って断られたんやな。



彰が笑いを浮かべる。




「え…今ココで言うんですか?」



………?


信人くんが真太郎に何かを求めとる…?



「…仕方ないですね…」



………??















「信人くん…愛してますよ」















心臓が一瞬…止まった気がした。




今…真太郎…何て言った?








「信人クン 愛シテマスヨ」








彰はしばらくその場に立ち尽くしていた。


真太郎は電話を切り、遅い彰を心配してキッチンに向かおうとドアを開けた。



…ガチャンッ!!



真太郎がドアを開けた瞬間、彰が持っていたマグカップとドアがぶつかり、コーヒーが零れた。


「あっ…すいません 彰!」


彰は真太郎の声にハッとなった。


「大丈夫ですか?
火傷とかしてません?」


真太郎は手際よく零れたコーヒーを雑巾で拭く。


「…大丈夫…」




火傷なんかしていない。




さっき淹れたばかりのはずのコーヒーは…もうすっかり冷めきっていたから――…。
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