企画

□赤いランプ
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文:月影 眞


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百物語だって?じゃあ、俺がとっておきの話をしてやるよ。

これは作り話なんかじゃない。
本当の話――――




赤いランプ



語り手:カンシュコフ








これは俺がまだ学生の頃、バイトをしていた雑貨店での出来事。




「カンシュコフくん、もう閉店するから掃除始めちゃって〜」

「うぃーす」

「あ、ついでに必要ない電気も消してきてくれるかな?」

「了解です」

「じゃあ、頼んだよ。俺はレジ閉めてくるから」


 呑気に手を振る店長の後ろ姿を見送くり、俺は店長に言われたとおりに必要のない電気を消し店内の掃除を始めたんだ。

 たいした広さもない店内。
モップを片手に掃除をしているとある一角からジィーッ、と言う電子音が聞こえてきた。薄暗い店内に響く不気味な音。

 あり得ないと思いつつも、心のどこかでもしかしたらと、恐る恐る音のする方に顔を向ければ、なんのことはない、店長が防犯用にと備え付けていたカメラだった。

ただし張りぼての。

「ったく、脅かすんじゃねぇよ」

 ホッと安堵の溜め息を吐き出すと共にぶつぶつと文句を垂れながらカメラを睨み付けると、カメラは電子音を立てながら何食わぬ顔でこちらを見つめていた。


 とは言ってもただの張りぼて。録画機能などはついていない。ただ赤い録画ランプが付き、電子音を立てながら左右に首を振るだけのもの。何も怖いものではない。


 だから俺は気にせずに掃除を再開したんだ。

でも……

ウィーン…ジジジッ……

 俺が何かで動く度、そのカメラは俺の姿をを追うように向きを変えた。そう、まるで俺を探すかのように、確かにこちらを見ていた赤い録画ランプを点滅させて…


「………ッ!?」


 さすがに俺も気味が悪くなって掃除もそこそこにその日は仕事を終え家路についた。



そして次の日。
たまたま上がりが一緒になったバイト仲間の先輩に何気なくその話をしたんだ。

「――――ってことが昨日あったんスよ。さすがに張りぼてってわかってても気持ち悪いもんですよね。店長なんとかしてくれないっスかね先輩?」

「はぁ?カンシュ、お前なに言ってんだ?」

「へ?」

「あの張りぼて、1週間前に俺が壊しちまって動かねぇぞ」

「はぁ?」

「だから、俺が荷出し中に落として壊れたんだよ。今は、電池も入ってねぇし、ビニールテープで補強してっから張りぼてだってバレバレだぜ?」

「――だ、だって、昨日」


確かに動いていた。
不気味な機械音を鳴らし、赤い録画ランプを光らせて。



「ったく、どうせお前の見間違いだろ。なんなら、確認するか?」

 呆れたように笑う先輩。そう言われればそうかも、と思ったが見間違いにするにはあまりにもリアルな体験で、どうしても気になり先輩を連れてその場所へと行ってみたんだ。


「ほら、壊れてんだろ?お前の見間違いだよ、カンシュ」


件の場所、店内の一角。
そこには見るからに張りぼてになった防犯カメラの残骸があった。ぐるぐるに巻かれたビニールテープ。入っていない電源。光らない録画ボタン。



けれど俺は見てしまった。
ちょうど俺の真上。先輩からは見えない位置にあるそれにカメラを指差し笑う先輩と、髪の長い女が先輩にぴたりと張り付き、こちらを見てうっすらと笑っていたことを――――





これでこの話は終わりだ。
あ?先輩がどうなったかだって?さぁな、あのあとすぐに俺もバイトを辞めたから知らねぇんだよ。けどな、知り合いから聞いた話じゃあの店"でる"って有名だったらしいぜ。

なんでも事務所の鍵が勝手にかかって閉じ込められたり、啜り泣きが聞こえたり、足音が聞こえたりってな。

きっと今でもあの店じゃ、見えない何かが彷徨いてるんだろうな。














<暗転>


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