企画

□ドッペルゲンガーに答えてはいけない
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文:月影 眞

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これは片割れに起こった出来事




ドッペルゲンガーに答えてはいけない



語り手:キルネンコ








今、何時だろうか。

 時計の針の音は聞こえるが、ベッド脇にある時計を確認することはできない。

 何故なら俺の正面に「プーチン」がいるからだ。


「キレネンコさん、キレネンコさん、起きて」

 そいつは「プーチン」と思われる声で俺の名を呼び「プーチン」と同じであろう白い指で俺がくるまる布団を揺すってくる。
 それはいつもの愛らしい恋人に違いはないが、俺の中の何かが「違う」と言い張る。いつもプーと居て感じるものがない。遺伝子といいうか、空気というか、そういったものが全く感じないのだ。

 ドアが開き「プーチン」が入ってきてからずっと俺は目を瞑り布団を頭まで被り続けていた。しかし、その「プーチン」はなんとか俺を布団から出そうと声をかけ、ゆさゆさと揺らしてくる。
 普段のプーチンなら遠慮なく布団をひっぺがすなり潜り込んでくるなりするのに、この「プーチン」はひたすら呼び、布団を叩くばかりだ。


(さすがに気味が悪いな)


 「プーチン」の姿で俺を誘い出そうとするコイツは、一体なんなのだろうか。

 真夜中の薄暗い部屋の狭い布団の中、俺は何故か暴れる心臓を押さえ込み身を潜めた。


「キレネンコさん 起きて、ねぇ起きてよ、」


だめだ。答えてはいけない。
直感的にそう思った。


「ねぇ キレネンコさん、起きてってば」


ゆさゆさ ゆさゆさ


「ぼく、頭がいたいの」


ゆさゆさ ゆさゆさ


「助けて キレネンコさん」


ゆさゆさ ゆさゆさ



いけない。答えてはいけない…!


「キレネンコさん、さびしいよ」


ゆさゆさ、

ゆさ。




「なんで どうして でてきてくれないの?」




ねぇ、き  ネ  こ    ん     レ  ん  さ




 全身に悪寒がはしった。
 ぞわぞわと背中に虫が這っているような、氷の塊が入った水を頭からぶちまけられたような、気持ち悪い感覚が俺を襲った。



だん!

だん!


 布団の向こうの「プーチン」は揺するのを止めたかと思うと、今度は拳を叩きつけてきた。


だん だん!!


「おキて!起キて!」

だん だん!!



「ねえぇえぇえヲキテエェエェエェエェエあァあぁアぁあ」


だんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだん



(何だ、コイツは、)

(プーは、)


(プーは、大丈夫なのか?)



―――リン リン リン リン

遠くから鈴のような音が聞こえる

(これは…プーチンの目覚まし時計…?)

毎朝鳴るのは、6時。


だん。


「…あーあ、時間切れだぁ。

やっぱり むりか」








ふっと気配が、消えた。


 その瞬間、俺の身体中からどっと汗が吹き出た。瞑っていた目を開いて、辺りの様子を窺う。


「はぁっ…はぁっ…!」


 何故か身体が震えて動かない。寒くて寒くて、でも布団の中は暑くて、奇妙なモノが去っていった余韻に身体中が浸っていた。

 ガチャ、と音がして、何かが入ってきた。それに、「俺」はすぐに反応した。

「キレネンコさ〜ん、朝ですよ」


 間延びした声と共にこちらへ歩いてくるプーチンを凝視する。
と、すぐに俺の異変に気付き、首を傾げ「どうしたんですか?」と瑠璃色の瞳を揺らした。

 俺はその手を掴み取り、力任せに小さな身体を抱き締める。


「キレネンコ…さん…?」


 訝しげに震える声、聴こえる鼓動暖かな体温、匂い。それでもそっと抱き締め返してくる細い腕。

あぁ、間違いない

 そこにいるのは間違いなく俺が知る「本物の」プーチンだ。


「キレネンコさん…?」


「…大丈夫だ。少し、悪い夢を見ただけだ」



そう、あれは夢


 心配気に背中をさするプーの温かい手と俺を呼ぶ低く柔らかい声に強張っていた身体が徐々に解れていく。俺はプーを膝の上に乗せて髪の毛から額から唇にいくつもキスを落とした。

恥ずかしがり逃げ回る恋人。


 その時、ふっと目覚まし時計を見ると、時刻は5時59分。

「なっ…」


カチッ

リン リン リン リン

リン リン リン リン



 遠くで鈴のような音色が鳴り響いた。














<暗転>












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