企画
□ほら、後ろに
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文:月影 眞
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次はアンタの番だよ
ほら、後ろに
語り手:×××
それは、ある日のこと。
部屋の家具の位置が変わっていることに気がついたんだ。
最初はボリスがやったのかな?
と思ってボリスに聞いてみたんだけど『俺が弄るわけないだろ』と一蹴された。
じゃあ、気のせいかとその日はそれで片付けたんだ。
けど……
その日から毎日、不思議な現象が起きるようになった。
ごみ箱の位置が変わってたり、本が開いて置いてあったり、窓が開いてたり、食べ物が置いてあったり。
ボリスに聞いてもやっぱり『俺じゃないぞ』と言われ、さすがの俺も気持ち悪くなったんだ。
だからそのことをボリスに相談してみたんだ。
「お前をストーカーするとか、どこの物好きだよ」
「ちょっ!ボリスそれどういう意味さ!!」
「深い意味はねぇ。ま、ストーカーにせよ、物取りにせよ警官の家に侵入するとはいい度胸だ。要は侵入した証拠がありゃいいんだから、こういうのはどうだ?」
そう言ってボリスが提案したのは俺の部屋に隠しカメラを設置して犯人を突き止めること。
証拠さえあれば鉢合わせになっても即刻逮捕もできる。
「…そうだね。うん、そうしようか!」
ボリスにそう言われ、少しだけ安心した俺は、少し弾んだ気持ちで自室に隠しカメラを設置したんだ。
うん、安心していた。
これでもう大丈夫だと。
証拠さえあれば、どうとでもなると。
次の日、仕事を終えボリスより早く帰宅した俺は、迷うことなく隠しカメラで撮影した映像を見始めたんだ。
夕方頃、名も顔も知らない男が部屋に入り込んできていた。やはりストーカーだったんだと、少し嫌悪感に陥る。
男は、俺の部屋を物色しては寛いだり、まるで自分の部屋のように扱っていた。
気持ち悪い…
鳥肌が立つような悪寒に支配されつつ映像の中の男を見つめていると、男は俺の部屋をでていった。
これで終わりかと、溜め息をつくと、しばらくして映像の男がまた俺の部屋に戻ってきたのだ。
何かぎらついた物を持って。
あれは…、なんだ?
粗い映像を目を凝らして良く見ると、包丁のようなものに見える
そう、あれは包丁だ。
そして、男は包丁を持ったまま俺の部屋のクローゼットに身を潜めた。
嫌な予感がした。
しばらくして、その部屋に俺が入った映像。
え?
映像は、今現在、この部屋に男がいるということを示していた。危機を感じて、クローゼットを見ようと振り返った瞬間、
目の前に包丁を振りかざす男がいた。
「はじめまして、コプチェフさんそして――――」
「…ぁ…ああ…っ」
「ご機嫌よう」
視界が紅で染まった。
「コプチェフ、帰ったぞー」
返事が無かった。
いつものコプチェフなら、何をしていても玄関まで迎えに来てくれるハズなのに…
やや不機嫌になりつつも、俺は自室に向かう。
そして、自室の前に辿り着いてドアを開けようとした時、気が付いた。隣のコプチェフの部屋が開いてるということに。
嫌な予感がして、俺は恐る恐る覗いてみたんだ。
そこにあったのは
床に広がる、紅、アカ、あか…
その真ん中に横たわる、見慣れた人物、大切な…
「なっ……なんだよこれ!!」
急いで近付き、その身体を揺する
「コプチェフ!コプチェフ…!おい、返事しろ!!誰にやられたんだよ!おいっ…!!」
しかし彼は答えない。
その時ふと、隠しカメラの存在に気付き、俺は始めから回して見ることにした。
部屋で寛ぐ見知らぬ男、
包丁を持って隠れて、
コプチェフが帰ってきて、
映像に夢中になっていて、
その後ろに近付く男、
包丁を振りかざす男、
ぐさっ
横たわるコプチェフ、
笑い声をあげる男、
そして再び隠れる男、
帰ってきた俺、
今に至る。
……え?
「はじめまして、ボリスさん
そして―――――」
ご機嫌よう。
<暗転>
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