企画

□語り部と聞キ手
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文:黒峰

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知っているヒトでも、

中身が違うヒトと、

お話をしちゃいけないよ。



手を引かれてはいけないよ。

騙されちゃう 騙されちゃう



ついて来ちゃうから、

憑いてくる? 誰が?



 誰  が?



よ く 見 て





キミが見つめているヒトはちゃんと知っている人かな?


よく視て、キミが見つめている先には何があるかな?

よく見てよく視て そうしないと連れて行かれちゃうよ

どこに連れて行かれちゃうの?

それはね、キミが絶対知らない所



その子とオハナシをして手を引かれたら


憑 れ て  

逝  か れ ちゃう  よ ?





語り部と聞キ手



語り手:カンシュコフ








「って話を俺の小さい頃、大人の誰かから聞かされてさ、ビビって友達と話せなかったんだよな〜」

「…チビが言うと普通の怖い話もリアルに感じて…怖いな。語り上手いよな、チビカン」



午後14時30分。昼休み。
へっへーん!と誇らしげになるカンシュコフは本当に語りが好きなんだなぁと俺は思う。童話でも何でも、『語り』が出来るのは好きなんだと言っていた。ロウドフは人と会話をするのが苦手な方なのでこんな事が出来るカンシュコフに少し憧れていた。


「…にしても、やっぱ怖い話をしても部屋の温度は下がってはくれないんだな…熱いぃ」


 夏でもここは涼しい方なのに、何故か今日はとても暑かった。
だからカンシュコフは少しでも涼しくなるように怖い話を語り出したのだ。部屋は暑いままだが、体の内が寒くなった気がする。



「当たり前だろう。それで本当に温度が下がったら、俺はチビから逃げるぞ…」

「その時はロウドフ先輩の手を引くから安心してよ」

「あの話をした後に……それをするのは止めて…くれ」


 カンシュコフは苦笑いをし、すみません。と言ったその直後、扉が鈍い音を立てながら開いた。
その音に驚いたロウドフはカンシュコフの服を思い切り握り締め、扉の方に目をやった。


「あ…」

「あ〜、いたいたぁ。ねぇ、もうちょっとしたら仕事開始のあのうっるさぁいチャイムが鳴るよ〜」



 その扉から出て来たのはショケイスキー。良く知る友の姿に安堵して、握り締めていたカンシュコフの服をゆっくりと離した。この状況を見たれた恥ずかしさにロウドフは俯きながら「すまん」と小さく謝った。


「もぉ、怖いハナシをするのは勝手だけどね、半分ジョーダンとかでも、そういうハナシをしちゃうと自然によってきちゃうよ?ただでさえここはいいところではないし、寧ろ危ないところなんだからさぁ〜。それにそういうハナシ、霊にしてみたらいい気分じゃないだろうしぃ。こわいよね…こわいよね…………わかるよね?」


 稀に見るショケイスキーのお怒りのご様子にロウドフとカンシュコフは、


「……………すまん」

「……………すみませんでした」


 と、重々しい空気の中ほぼ同時に声を揃えて謝罪をした。
黒い笑みからいつもの笑みに戻り「ゆるす」と返事が返ってきたのでロウドフは二度目の安堵をした。


「ほらぁ〜!楽しい楽しい仕事をするよぉ!」

「ん、あぁ」


 何かを思い出した様にポケットからスケジュール帳を出すカンシュコフの顔が次第に青くなっていった。


「…ぁ…やっばい、今日はタチの悪い奴らの所だ…っ!じゃあ行ってきます!」


 愛用のマジックハンドを持ってカンシュコフは部屋から出た。
 ドタドタと足音を響かせながら走って行ったのを予想すると、相当焦っているのだろうと、ロウドフはクスリと笑い部屋から出た。一目散に仕事場へ行ったであろうカンシュコフの姿はもう見えなくなっていた。


「走るの…早いな」

「そりゃあ、仕事に間に合わなくなっちゃうからねぇ〜たいへんたいへん!」


 最後に部屋から出たショケイスキーは扉をパタリと閉めて、ロウドフの隣に並んだ。
 鼻歌を歌っているショケイスキーにロウドフは疑問に思っている事を聞いてみた。


「なぁ、ショケイスキー」

「なぁに?」

「お前は…霊とか、見えたりするのか?」

「人並みいじょうには視えるとおもうけどそれがどうしたかの?」

「…い、いや…気になっただけだから…」

「…?ふ〜ん」


 ロウドフの蒼い瞳を覗き込むように見上げてくるショケイスキーの赤い瞳。吸い込まれるような、濁りのない綺麗な瞳…それが妙に恐ろしく感じた。


「…、…。」

「どしたの?へーき?だいじょうぶ?」

「あ…へ、平気だ。すまん、変な事訊いて…」

「あはは!気にしてないよぉ。けど無理はしないでねぇ〜、最近よくひんけつで倒れるんでしょ〜?」

「う…すまん。気を、付ける」


 ロウドフの胸にズキリと、罪悪感が突き刺さる。
 心配してくれたのに、その瞳を恐ろしく感じるなんて、笑顔が恐いだなんて、きっとあの話のせいだと自分に言い聞かせ、ぎこちない笑顔を作った。


「…じゃあ、俺は向こうの囚人の所に行くから」


 向こうを指差す所は、奥の方まで囚人の汚らしい言葉がはびこる場所であり、ショケイスキーはその光景を冷ややかな目で眺める。


「うわぁ、きょうも大変だねぇ」

「これくらい普通だ」

「そっかぁ…じゃあいってらっしゃぁい」


 お互いに小さく手を振って罵声が飛び交う場所へロウドフは歩いていく。

 その軽くもなく、重くもない足取りを見ながら、背を向けている寂しそうな背中を見つめて、哀れむ様に呟いた。


「……………だめか。」


 その言葉はロウドフに聞こえる筈もなく罵声と鞭の音によってかき消された。




 ジリリリリ!!と、けたたましく仕事のベルが響き渡る。いつもに増して五月蠅く聞こえるベルに嫌気をさしながら、今日処刑する人物を思い出す。




(さぁ楽しいたのしい仕事をしなくちゃ)










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