企画
□七つ目の真相
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文:破璃
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「これは本当の話なんだけど、」って前置きされてから聞く噂話ってあるだろう?
そういう時、出所を尋ねると
『友達のお兄さんの同級生のさらにその友達が〜』とか、大抵のがあやふやなんだよな。本当の話、って言われてもウソくせーって思うもんだ。
……でもな、これからするのはマジな話。
民警から直接聞いた"七不思議"だ。
七つ目の真相
語り手:×××
直接ってのがさ、俺、仕事の関係で民警の連中と結構知り合いなんだよ。その中の一人、入りたてのヤツがこの前、コソッと教えてくれたんだ。
眉唾な可能性もあるけど、又聞き繰り返してるよりは信憑性あると思わねぇ?何よりソイツ、すげー深刻な顔で話したからさ。
民警っつったら正義感とかルールとか真面目でガチガチな連中ばっかりかと思うだろ?でも実際それほどじゃねぇ。他の俺の知り合いも割合バカやってるし、ソイツみたいな新入りなんか特にただのワカモノなんだよ。
だから新入り同士集まると色々話が盛り上がるんだ。
訓練や仕事に対する愚痴とか、上司の悪口とか。経理課の女子で誰が可愛いか、とかな。どこの職場でも一緒だよ。
で、その延長というのか、ソイツは自分の職場で噂される”七不思議”を聞いたんだ。
そう、学校とかで言われてるやつ。七つ全部知ると呪われるだの殺されるだのいう、ソレだよ。
その時は仕事上がりまでもう10分ってところで、特に通報もなく皆暇だったらしいんだ。
そうしたら面子の一人が、じゃあ怪談話でもしよう、って言い出したんだと。
殺人や事故を扱う民警内では割とその手の話題は豊富らしい。
先輩とかから教えられるそうだ。で、その一番有名どこを集めたのが『民警七不思議』なわけ。
一つ目、南棟二階男子トイレの三番目の個室は昔シゴキに耐えかねた新人隊員が自殺した場所で、夜中に開けると血濡れの隊員の霊が立っている。
二つ目、今使われていない建屋裏の焼却炉では時折、煙が上がる見に行くと顔の知らない隊員が事件隠ぺいのため資料を燃やしており、「見たな」と言って鬼の形相で追いかけてくる。
三つ目、ラーダ・カスタムの予備には一台呪いのラーダと呼ばれるものがあって、代車としてそれを運転すると必ず大きな事故が起きてしまう。
四つ目、かつて不具合のあった拳銃を隊員が使用、暴発した結果腕が吹き飛んでショック死してしまった。しかしその際飛んだ利き腕は見つからず、幽霊となった相手が今も探している。
五つ目、厳重管理されている訓練場の銃器の数が足りず、責任を感じた末命を絶った隊員がいた。同じく数えて一つ足りない時、どこからともなく「足りない…足りない…」という声が聞こえてくる
六つ目、物置脇の古い取調室では自白を強要するため拷問を行っていた。部屋の前を通ると誰もいないのに悲鳴が聞こえたり、何かを殴るような音がしたりする。
流石おまわり、と思うような内容もあればどこでも聞くようなネタも色々あるよな。
と、こうして六つまで話が上がったんだが、しかし、残りのあと一つが出てこない。一人くらい知らないか、って聞くんだけどだーれも知らないって言うんだ。
けど、これじゃ白けちまうだろ?七つあってこその"七不思議"だもんな。なんで何とか話を完成させようって皆必死だった。それこそ仕事そっちのけで集中してたんだ。
すると、
「…七つ目がないのは、貴重な新入りの数を減らさないためだよ」
―――なーんて声が、真後ろから聞こえた。全員悲鳴上げて飛び上がったってよ。思わず出たぁって叫んだ奴もいたとか。時間と状況が丁度アレすぎたしな。
で、振り向いてみたら―――なんてことはない、良く知ってる先輩が立ってた。驚かれたのが面白かったんだろうなぁ、めっちゃニコニコしてたってよ。
「皆ご苦労様。随分盛り上がってるね〜?」
痛いところ突かれた新人どもは慌てて頭を下げた。
幸いその先輩ってのが嫌な奴じゃなく、仕事が出来ることもあって皆尊敬してる相手だったんだと向こうもただの冗談だったらしくて特に小言はない。
でな、ホッとした連中は折角だから、と中途半端な七不思議を先輩にも尋ねてみたんだ。
「残念だけど、俺も最後の一つは聞いたことがないんだ」
「でも、"七"不思議なんスよ?適当になんか一個入れて、それを本当の話だって流せば良いんじゃ……」
「そういうのは捏造って言わない?ま、ほかの不思議だって嘘か本当か分からないもんだけどね。
呪いのラーダとか、俺何回か乗ったけど一度も事故んなかったし」
「そりゃ、先輩だからでしょうよー」
「おだてても何も奢りませーん。けど、そうだなぁ……強いて言うなら、
七つ目は最上機密[トップシークレット]
……ってのが一番正解に近いのかもね」
宙を仰いで言った先輩が口の端を持ち上げた。
そこでちょうど終業のチャイムが鳴り響いた。腑に落ちないけど皆真相解明は諦め、素直に帰り支度を始めた。
ただ俺が話を聞いた奴は好奇心旺盛といおうか野次馬根性激しいといおうか、どうしても七つ目が気になってな。
だって民警の歴史って長いし、人数だって山ほどいるんだぜ?それなのに全員、七つ目だけは知らないなんておかしくね?
ってのが知り合いの言い分で、オチをつけられないかって一人悩んでた。そうしたら、まだ出て行ってなかった先輩が「そんなに気になる?」って寄ってきた。
まぁ、気にはなる。だから知り合いは頷いたんだ。ら、
「そっか……―――なら、仕方ないな。特別に教えてあげるよ」
そう言い、先輩はずいと顔を近づけた。
折しもその時間帯は西日が強くて、知り合いの背後にある窓から覗いた夕日が室内を赤く染めた。机も棚も、周りにある備品が影を長くする。
その中で正面にいる先輩だけ、逆光で姿が見えなくなった。それがなんだか空恐ろしく思えて、ソイツは無意識に唾を飲んだ。
「民警の中にはね、」先輩は抑えたトーンで口火を切る。
―――民警の中にはね、生きてる隊員以外が混じっているんだよ
仕事柄殉職する可能性が免れない職場だ。その際腕の良すぎた奴は惜しまれるあまり、霊魂を強制的に留められずっとこの場所へ縛られ続けるんだ。
ほら、よく顔を見てご覧―――その人はちゃんと、『生きた』人間かい?
「……けどね、仮に生者じゃない奴がいると気づいても、絶対に指摘しちゃあ駄目だ。これは民警組織でもトップレベルの機密事項。口外したらどうなるかは―――分かるよね?」
にっこり口元脇へ人差し指立てる先輩に、ああ、とソイツは理解した。
だから、七不思議の最後は『誰も知らない』んだって―――そして先輩が入ってきた時「新入りを減らさないため」と言ったんだ、ってさ。
「…で、でも……先輩、さっきは七番目聞いたことないって……」
「『聞いた』ことはないよ―――『知っている』だけで」
「えっ…………」
それは、とても重要なことではないか。伸びる影に囲まれて、ソイツはもう少し突っ込んで尋ねようとした。
と、それより先に戸口がガラッと開いた。慌てて見るとそこには一人、また別の先輩が立っていた
「鍵取りに行くのに何分かかってんだ」
ジロッ、と睨む先輩は目の前の先輩とは対照的に厳しいので有名なんだが、やっぱり署内で一二を争う才能の持ち主なんだと。
コンビを組んで動いてる二人はどうやら遅番のパトロールに行くらしくって、ドライバーである先の先輩が降りてくるのを待ってたんだ。
「あー、ゴメンゴメン。ちょっとね、彼がウチの"七不思議"に興味があるって言うから」
「七不思議……?んな下らない話で盛り上がんなよ。さっさと行くぞ」
スッパリ切り捨てて背を向けた後からの先輩を、先の方は苦笑しながら追いかけてった。
残された知り合いはっていうと何も言えず、半分固まったままその様子を目で追ってたんだ。
ただ、な―――その時、ソイツは見ちまったんだ。
逆光から外れた先輩二人の影が他の床にある影と同じよう落ちていないのを。
「―――……っていうのをな、ついこの間酒場で知り合った兄ちゃんから聞いたわけよ。
でな、この話はもうちょっと続きがあってなー。その兄ちゃんは最後に出た『影のない先輩』たちってのとダチだったんだとー。
んで本人ひっつかまえて話してみたら「何言ってんの、お前」みたいにさんざん馬鹿にされたって!ひゃひゃっ、笑えんねぇ〜飲んで俺相手に愚痴りたくもなるわー」
「へぇ、そうなんだ」
「おうよ。こうやってお宅らと同じでたまたま同席してぇ、愚痴られてぇ。今元気してんのかな〜?あ、前の兄ちゃんは金髪だったからお宅らとは違うんだけどぉ、っぅえっぷー」
「アンタ、もう飲むの止めとけ。歩けなくなるぞ」
「んあ゛ー?だいじょぶだぁいじょーぶ!ちゃーんと歩けてますよぉ〜、っとぉ、おぉ?」
「全然じゃねぇか……オイ、一応連れてくぞ」
「はいはい。じゃあおにーさん、俺たちが車で送ってあげるから酒瓶離してこっち掴まって」
「おー、マジでぇ?お宅ら親切だなぁー!どっちもイケメンだしよぉ、俺ぁ感激すっぜー!」
「「…ま、一応仕事なんでね」」
「……ところでおにーさん。実は俺達も民警に入っててね」
「そうなんかぁー?」
「……ああ。だからさっきの七不思議の話、折角だからもう一回聞かせてくれよ」
"七つ目の不思議"がなんなのかをさ。
<暗転>
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