企画

□雨の音
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文:月影 眞

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その晩は雨が強く降っていた。





雨の音


語り手:カンシュコフ







それは一ヶ月くらい前のこと。

 久しぶりにあった友人と食事をしながら仕事の愚痴を言い合ってたんだ。あの先輩が嫌だとか、上司がどうとか、勤務体制に無理がある、とかな。そしたらその時、友人の一人が思い出したかのようにあるトンネルの話をしだした。


 まぁそのトンネル、要は"でる"って有名らしくてな。最近じゃ若い奴らが肝試ししにいくんだと。 で、面白そうだし時間もあるし勢いで俺たちも行ってみようって話になったんだ。

 車はその話を持ちかけた友人が運転して、助手席にはもう一人の友人、そして後部座席に俺。
 男、三人なんてちょっとアレだけど今更気をつかわなくてもいいぶん、ドライブ気分でそこに向かったんだ。






 現場に着いて、トンネルの手前で車を脇に寄せ、一時停車。
 その手の感覚は鈍いほうだったが不気味な雰囲気は感じた。
『恐い場所だ』という、先行イメージのせいもあるだろうが。


 結構な距離だったからしばらく休憩した後、ゆっくりと車を進めトンネルに入ったんだ。

 こういう体験は初めてで、ワクワクするような妙な高揚感を感じてたのを覚えている。

 友人達も思ったよりも乗り気だったみたいでよ、目を輝かせて辺りをみていたんだ。
 それほど寂れた場所ではないんだけどな、何故か後続の車は来なかった。

 だから、スピードをかなり落として進む。何かが起こる事を期待しながら。





 でも特に何も起こらず、トンネルの終端まで着いてしまった。
 トンネルの壁などを観察していた友人たちも、別に妙なモノを見たわけではなさそうだった。


 だからかな「もう1度いってみようぜ」と提案が出ても反対しなかったんだ。


 車をトンネルの端でUターンさせて来た道を戻る。


しかし、何も起こらない。


 これでは面白くない(と言うか暇なので)何度が往復してみようという事になった。




 その時、雨が強くなってきたのか雨粒が車を叩く音がうるさくなってきた。



3,4往復ほどしただろうか。


 手席に乗っていた友人が「おいもう帰ろうぜ」と言い出した。
 何も変わった事も起こらず、いい加減飽きてきた(ただ眠たくなったとも言うが)のだろうと思ったていた。


 だが、何か声の調子がいつもと違った。


仕方なく出口を目指し、最後にもう一度とトンネルの出口が見えるあたりで一旦車を止め、後ろを振り向いてみた。が何もなかった。



 しかし、帰ろうと言い出した友人は後ろを振り返ることなく、ひたすら前を、フロントガラスに叩きつける雨粒を睨み付けていた。


 運転していた友人はその様子を見てキョトンとしている。



「え、どうかしたの?まさか、何か見えたとか?」

と聞いたが、「いいから、とにかく車を出せ」と言う。


 もしかしてコイツは"何か"を見たのか?期待と不安で動悸が激しくなってきたが、追求することができなかった。だって、ソイツの顔があまりにも真剣そのものだったから――――――


 雨は一層酷くなり、ボンネットを叩く音が耳ざわりに感じた。






 とにかく一旦ここを出て、どこか落ち着ける場所に行こうと車を走らせ、国道沿いのファミレスに寄り、ようやく一息ついた。


 睨み付けるように窓の外、厳密にいえば雨粒を睨み付けていた友人もどうやら少しは機嫌が良くなったようだ。



「なぁ、もう大丈夫だろ?何を見たんだよ」

俺は野次馬根性で友人に詰め寄った。すると、



「お前ら、聞こえなかったのか?あれが」



友人は怪訝そうな顔で俺達を見た

 妙な怪音の類か?それとも声?しかし、俺には心当たりはない。

 もう1人の友人も、何が何やらといった表情をしている。



「別に何も……まぁ、運転してたし、雨も煩かったからなぁ」


「聞こえてたんじゃねぇか!」


いきなり声を張り上げられて驚いた。深夜なので店内にはほとんど客はいなかったが、バイトの店員が目を丸くしてこちらを振り向いた。

しかし、コイツが何を言っているのか理解できない。


「何が聞こえてたって?はっきり言えよ」


 大声を出された気恥ずかしさと苛立ちもあって、俺は少し強い口調で言ってしまった。



しばらく重い沈黙が続いたあと、ソイツが口を開いた。


「……雨だ、雨の音。俺達はずっとトンネルの中に居ただろ?じゃあ、なんで雨が車に当たるんだ」


言われた瞬間、背筋が凍りついた


そして思い出す。トンネル内、叩きつけるように車に降り注いだあの雨の音を――――――












<暗転>
















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