夢十夜

□第十一夜
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collaboration


お題:全力で悪ふざけ



絵・タコクラゲ

文・月影 眞&緋柳 涙


スクロールにて表示






























































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 崩壊したビル。そこから上がる砂塵に人々の悲鳴。それをかき消して轟く赤兎の咆哮。


「クソ…コプチェフ!俺が引きつけるからお前は逃げろ!」


 瓦礫を挟んだ向こうから届く相棒の切羽詰まった声にコプチェフは戦慄した。


「そんな…ッボリスを置いて逃げるなんて出来ないよ!」

「じゃあ避難の誘導に回れ!!」

「言い方変えたって「いいな!!頼んだぞ!」


 コプチェフの声を遮り、ボリスが瓦礫から飛び出す。
 いつもは頼もしい背中がひどく儚く映った。


 駄目だ、今彼を行かせたら――


 止めようと伸ばした腕は虚しく空を掻き、


「うわぁ…!!」


 ボリスの体が宙を舞った。


「ボリスーーー!!!」


 地面に激しく叩きつけられるボリス。
 駆け寄り、抱き上げると微かな呼吸音が聞こえ、ひとまず生きてはいると確認出来た。


「ボリス、しっかりして!」


 だが危険な状態には変わりなくコプチェフはひとまず安全な場所へ移動するべく立ち上がろうとする。と、


 その刹那、時が止まった。

 揶揄ではなく、本当に周りの一切がピタリと。


「ぇ………?」


 理解が追いつかず辺りをただ見回していると、ふと腕の中で動く温もり。
 見ると、意識を失っていた筈のボリスが震える手で先端に星のあしらわれた、おおよそ成人男性が持つような物ではない可愛らしいステッキをコプチェフに握らせている。


「ボ、ボリス…?」


 戸惑いを隠せず問うと、至って真剣な顔をした彼が語り出した。


「思った通りだ…お前には…魔法少女の素質がある…」

完全に電波な内容を。

「いいか、コプチェフ…お前の中には、眠ったままの魔力がある……今なら…それを引き出せる…」

「ちょ…待ってボリス、意味わかんない…てか…え?魔法…魔力…何?」


 理解出来ないコプチェフを置いてボリスはひたすら語り続ける。


「鍵は、俺が開けてやる。だけどそこから先は…お前次第だ…頼む、あのクソ兎を―――」

そこで言葉を切り、ボリスはそっと唇を重ねた。

「ッ…ーーー!」


 途端体の奥から何かが溢れる感覚と共に、握ったステッキが輝き出す。その光の中で聞こえた優しい声に促されるまま、コプチェフはポーズを決め言い放った。



「シベリア送りはバラライカ!!
魔法少女コプチェフ、プリティー&セクシーに見参っ☆」




 眩い光の環に包まれ、そこに現れたのは伝説の魔法少女コプチェフだ。

 古き言い伝えによれば、世界が危機に晒された時、愛する者を護りたいという強い想いを持つものだけが伝説の魔法少女に変身し世界を救うことができるとできないとか。


「え、何!?その曖昧なナレーション!てか、なんで俺、変な決め台詞とか言っちゃてんの?バラライカとか意味わかんないしっ!!」


 突然の出来事に1人ノリツッコミのコプチェフである。


「しかも、このヒラヒラフリフリビラビラの服とか有り得ないでしょ!ヒールの高さ半端ないし!ムリムリムリムリ!!こんなんで戦えとか無理だからぁぁーーー!」


 自身の身に起こった状況に否定の雄叫びを上げるコプチェフをよそに、赤兎は町を破壊し続ける。
 四方から上がる火の手、逃げ惑う人々。まさに阿鼻叫喚地獄絵図だ。

 そして、恐る恐る視線を上げれば赤兎とバチリと目が合う。


「ぎゃあぁぁぁぁ!こ、こっち見た!!見つかった!俺もしかして死んじゃう!?」


 いや、別にこちらを見た訳ではないだろうし、それだけで死ぬのなら既に世界は崩壊している。


 ぎゃんぎゃんと喚きたてるだけで現状をどうすることも出来ないコプチェフ。すると、先程と同じ声が頭の中に響いた。


『ったく、今回の魔法少女はいつにもましてうるさい奴だな』

「…だ、誰!?」

『しかもヘタレだしよ。ボリスの奴もなんでこんな奴を選んだんだか……』

「ちょ、それどういうこと?それに君は誰??そうだ!ボリス!!ボリスはどこに!?」

『あーマジうるせぇ!!いっぺんに質問するんじゃねぇよっ!』


 頭の中の声はそう言うとポン!という音と共にコプチェフが握り締めたステッキから黄色い物体が飛び出してきた。


「―――な、なに…!?!?」


 コプチェフの目の前に現れた黄色い物体。大きさは小型犬くらいだろうか?だが、とても犬には見えない。そう、たとえるなら兎。

 なのだが――――



「オレ様の名前はカンシュコフ!魔法少女に代々使えるステッキの妖精だ!よろしくな☆」


 その黄色い物体、もといカンシュコフと呼ばれる自称妖精はニカッと笑いコプチェフを見上げた。


「…て、ていっ!」


 お世辞にも可愛いと言えない寧ろ悪役にさえ見えるその笑顔に、コプチェフは思わず手にしたステッキで強かに叩き落とす。


「へぶっ!」


 ベチッ、と鈍い音を立てて地に伏した自称妖精。涙目で訴える。


「やだやだ!よろしくしたくないこんな得体の知れないのとなんかぁ!」

「…てんめぇ…何しやがるこのヘタレオトメン!だぁクソ、これからお前が今カボチャパンツな事をツ●ッターで拡散してやるちょっと待ってやがれ!」

「ちょ…何その陰湿な嫌がらせ!君、俺の味方っぽく出て来なかった?!」


 明らかに時代背景を無視した会話を繰り広げながらコプチェフはもう一度ステッキで、今度は角が刺さるよう殴った。

 最早魔法少女というより猟奇的彼女である。

 再び地に伏した、否、めり込んだカンシュコフがガバッと顔を上げ叫ぶ。


「ハッ!こんな事してる場合じゃねぇ!オイ魔法少女、あのクソネンコを倒すぞ!!」


 彼が指し示す方から此方を見た赤兎が足を上げるのが見えた。
コプチェフは条件反射で後ろに飛び退く。


「まずステッキを掲げて…」


 プチッ グシャッ


 当然背を向けていて見えなかったカンシュコフはグロテスクな音を立てて黒のスニーカーに潰された。


「不憫の星(カンシュコフ)ーーー!!」


 書いてある字と読み方が合致しないが、敢えてスルーしよう。


 ステッキを握り後退りする。


「ど、どうしよう……まだボリスの事も戦い方も聞いてない…!」


 なら何故出会い頭から強かに殴ったのか。

 とりあえず合掌しておき、カンシュコフの遺言(?)通りステッキを掲げてみた。


「え〜と…こうかな?」


 すると見下ろす赤兎と今度は間違いなく目が合う。

 しかも向こうから見ればホームラン予告よろしくステッキを向けている状態…平たく言えば喧嘩を売っているようにしか見えないのだ。


「………」


 嫌な汗が一気に噴き出る。

 ゆっくり、巨大な足が持ち上がりコプチェフの上に影を作った。


「ぎ、ぎゃああぁぁぁ!!」


 間一髪で避け、そのまま瓦礫を縫うように逃げる。


「…?あれ、何で俺これで普通に走れるの?」


 そう、今コプチェフは無駄に高いヒールを履いているというのに全く問題なく走れている。普段より体が軽い気すらした。


『魔法少女はそん位できて当然なんだよ』


 首を傾げると頭に直接響く声でカンシュコフが答える。


「?!生きてた!」

『魔法少女が死なない限りオレ様は消えねぇ』

「妖精すごっ!あんだけ生々しい音立てて潰れたのに!」

『あーおかげで姿は出せなくなっちまったよグロ過ぎて!まぁそんなことはいい。…いいか、文字数の関係でサクサク進めるけど、ステッキを掲げて愛する人を強く想え!そんで叫べ!それが世界を救える魔法だ!!』


 裏事情を滲ませた指示にツッコミを入れたかったが、命の危機が目前数メートルまで迫っている状況なのでコプチェフは大人しく従った。


「…ってちょっと待って叫ぶって何を?!」

『勝手に頭に浮かぶ!いいからやれ!』


目を閉じて愛する人――ボリスを想う。


俺は ボリスが好き

うん、大好きだ

寧ろ愛してる 

勿論、助けたい

けどそれ以上に

キスしたい 抱き締めたい

あわよくばそのまま押し倒して…

『…おい……』


 …てかボリス本当に何処行ったんだろ?変身する前は確かにいた筈なんだけど

 まさかこの衣装がボリスとかいう素敵なオチ?

 俺の身体にボリスが…?



『…ぃ…オイ!聞いてんのかてめぇ!!しかも、めちゃくちゃ邪念混じってんじゃねぇか!いいからさっさと叫べ潰される!』

「うるさいなぁ!解ってるよ!!」

 コプチェフは浅く深呼吸を繰り返すとカッと瞠目し、白く霞んでいく世界で声高に叫んだ。















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