永遠の自由落下
□仮面
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城まで後1kmをきった頃。暗闇の中から、何かの物音が聞こえた。
警戒心のない音。普段なら気にも留めないが…
妙だ。あまりにも無警戒すぎる。これほど無警戒な音を出せるのは、恐らく全生物の中で人間くらいのものだ。
速度を緩め、音のした方角を確かめる。
脱隊したカスかもしれねぇ…。
もともと癖で音を立てずに走っていたが、さらに気配を消し、音のしたほうへ向かった。
この辺かぁ。
全く乱れていない息を潜め、様子を窺う。直ぐ様目に入った物音の正体は、木の陰で、蹲っていた。
人間だ。
向こうを向いているため顔は見えない。時代がかった黒いマントにルーズな黒いズボン、黒い革靴と全身黒ずくめ。短い髪まで、艶やかな濡れ羽色。
何をしている・・・?
その人物はマントを外した。白いワイシャツが暗闇の中で白く浮かび上がるように見える。
そして今外したマントをひっくり返し、再び羽織った。
純白だった。
訳がわからない。
VARIAの隊服もそうであるように、黒装束は暗闇に紛れるのに都合がいい。なのになぜ、わざわざ目立つ白い面にしたのだろう。
スクアーロの中に生まれた疑問は、一瞬で意味をなくした。
マントの裾から、剣の鞘が覗いていた。
一気に血が暴れだす。
最近強い奴と戦っていない。
だからわざわざ任務の帰りに新手の剣豪がいるというジャポーネに立ち寄ったのに、蓋を開けてみれば剣豪とは名ばかりの平和ぼけした雑魚。余りの腰抜けぶりに、殺す気さえ失せた。
結局スクアーロは、ザンザスの米沢牛を買いに日本へ行ってきたようなものだ。
戦いたい。
この剣を血に染めたい。
命をやり取りする、本物の殺り合いをしたい。
身を捩る戦闘本能を押し込めておくことなど、できなかった。