スクアーロ短夢

□暑い日
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太陽が自分の季節の到来に張り切ってむたむたに気温を上げまくっている夏の日。風まで暑さを相手に戦意を喪失したのか、全く動かない。少しは働けよ、こら。おかげで体感温度が無駄に上がってんだよコノヤロー。湿った空気のせいで不快度指数は最大値を余裕で振り切っていた。








「あーついーあついーあついついあつついー♪ついあついあー♪」

「う゛ぉ゛ぉ゛い、変な歌歌うなぁ、余計暑くなるだろうがぁ。」

「えー、それって私が音痴ってことですかー?暑苦しいってことですかー?私ってヴァリアー幹部補佐失格ですかー?降格させられてレヴィさんの部下になるんですかー?それだけは刀ぶっ刺されようが目玉繰り抜かれようが脳天ぶち抜かれようが嫌なので、どうかどうかやめておくんなましー!!」




ここはイタリア。ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアー本部のだだっ広い屋敷の一室。ヴァリアーのナンバー2であり、2代目剣帝でもある白銀の長髪を持つ剣士、スペルビ・スクアーロの私室兼執務室。



「そんなこと言ってねぇ。つかどんだけレヴィの部下が嫌なんだよ!まぁ、当たり前かぁ・・・。
俺が言いたかったのは、暑いときに暑い暑い連呼すりゃあ暑い気がして余計に暑くなるってことだぁ。」

「そういうスクアーロさんだって、今の会話だけで五回も暑いって言いましたよ。」

「いや、四回だぁ。最後のは暑く、って言ったからなぁ。」

「そんなのどうでもいいじゃないですかー。…はー、暑い…暑くて何もやるきしなーい。……そうだ!スクアーロさん、私すっごいNICEなこと思いついちゃいました!」

「それは良かったなぁ。」

「何思い付いたか聞きたくないですか?」

「聞きたくねぇ。その言い方からして九分九厘下らない思いつきだからなぁ。」
「残りの一厘に懸けてみる気は「ない。」そうですか。しょうがないですね、そこまで言うなら教えてあげます。」

「質問したら答えくらい聞けぇ。」

「答えは聞いてない♪」

「お前は何処の仮面ラ○ダー電○のリュ○タロスだぁ?!」

「思い付きっていうのはですねぇ、」

「(聞いてねぇな…)」

「これから他の隊員とか幹部の皆さんとか誘って、皆でプールに行きましょう!」

「…お前にしては割とまともな考えだなぁ」

「そう、私にしては・・・ってどういう意味ですかっ?!」

「そのまんまだぁ。てめぇならもっとバカみたいなことも真顔で言うからなぁ。」

「例えば?」

「北極。」

「馬鹿にしないでくださいっ!私はそんなこといいませんよぉ。」

「いや、言いかねねぇ。」

「失礼な。私は・・・そこまでスケールの小さい人間ではありません!!どうせなら・・・宇宙とか言います。絶対零度で、文字通り本当に世界一涼しいですから。」

「否定するとこ違ぇぇっ!しかもいきなり現実味なさすぎんだろうがぁ。」

「だから代わりに、1万歩譲ってプールを提案しました。」

「確かに現実的だなぁ。…だが、却下だぁ。」

「えぇ?!なんでですか?いいじゃんプールぅー遊びたいよぉ。」

「残念だが今週一杯は幹部全員暇な奴がいねぇ。行きたいなら一人で行けぇ。」

「一人でプールとかどんだけ寂しいんですかっ!?まぁ、それじゃあ来週行きましょう。計画は私が立てますから。何か希望とかありますか?」

「時間があるなら勝手に計画しろぉ。時間があるならなぁ。お前、もう今週締切の報告書、全部終わったのかぁ?」

「うん、終わったよ。違う意味で。」

「真面目にやれぇ!…分かった、お前は提出するまで外出禁止だぁ」

「マジですか!?」

「マジだぁ」

「えー…。それ聞いたら余計に暑くなってきました…。スクアーロさんは暑くないんですか?黒い服着て。隊服じゃないからまだましですけど、襟元のフサフサが暑そうですよ。」

「あ゛ぁ…暑い…」

「じゃあ違う服着ればいいじゃないですか。かっこいいから何でも似合うのに。もしかして隊長、私服持ってないとか?」

「う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛い、おろされてぇのかぁ?私服位持ってるぜえ。」

「ですよね(笑)仕事が忙しくて着る暇がないだけですよね(笑)」




なぜかつぼってしまい会話ができなくなった天音の笑いが治まると、部屋はスクアーロがペンを走らせたり紙を捲ったりする音だけになった。




暫くぼーっとしていた天音が、再び沈黙を破った。






「…うー、笑ったせいか、ちょっと暑くなったような…。暑過ぎてぼーっとします…。熱中症とか脱水症状ですかねぇ?スクアーロさんは喉渇きませんか?脱水症状って怖いんですよ。何か持ってきます。何が良いですか?」

「気が利くなぁ。天音なのに珍し「え?スクアーロさん何か言いましたか?」・・・・・・・・何でも良いぜぇ。」

「そういう答えが一番困ります。本当に何でも良いんですか?何持ってきても文句言わないで下さいよ。例えば、おでんの汁だけとか。」

「う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛い!飲み物じゃねぇだろうがぁ!暑さを悪化させるようなもん持ってくんなぁ!」

「はいはーい。」

* * *

「はいどうぞ。」

「やけに早かったなぁ…ってただの水かぁ。」

「ただの、とは失礼な!ちゃんと氷だって入ってますし、わざわざストローまで準備したんですよ!」

「分かった分かった。ありがとうなぁ」

「どういたしまして。」

「……っぶ」

「どうしました?隊長」

「不味い。」

「それはイタリアの水道局に言ってください。私は悪くありません。」

「てめぇ、まさか水道の水をそのまま…」

「はい。」

「…イタリアの水道から飲める水は出ねぇ。ジャポーネとは違うぜぇ。」

「…本当ですか?」

「あぁ。ジャポーネのように水資源の豊かな国は少ないからなぁ。普通どこの国に行ってもそうだぁ。」

「知りませんでした…。」

「よくそれで今まで生活してこられなぁ…」

「こっちに来てから、水ってあまり飲まないんですよね…紅茶かジュースか牛乳か麦茶です。」

「ジャポーネにいた頃もか?」

「向こうにいた頃はしょっちゅう飲んでましたよ。部活もあったので毎日2g飲んでた時期もありました。ジャポーネの中でも特に水のおいしい地域に住んでたので。」

「そうかぁ。という訳で、今度から飲料水には気を付けろぉ。」

「はーい。じゃあ、変なものを飲ませてしまったお詫びに、なんか冷たいものでも買ってきます。」

「待てぇ。」

「何ですか?」

「お前は外出禁止だろーがぁ。」

「…覚えてたんですか。」

「当たり前だぁ。」

「うー、暑いぃ…。あ、ジャポーネといえば、ジャポーネには昔からエコに涼をとれるおばあちゃんの知恵があるんです。」

「何だぁ?」

…ビシャッ!

「う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛い、てめぇ何しやがる!俺に恨みでもあんのかぁっ!?」

「恨みなんかあったら、わざわざ自分用に汲んできた水を隊長のために無駄にしませんよ。何って、打ち水です。」

「何か根本的にちげぇ!」

「そうですか?」

「何で俺の頭に水ぶっかけたぁ?!あれは屋外で地面に水撒くもんだろうがぁっ!!」

「あらまあ。」

「あらまあ、じゃねぇ!なんでジャポネーゼのてめぇが俺より知らねぇんだぁ・・・あ゛ーあ゛ー、床までぬれてるじゃねえかぁ」

「書類がぬれなくて良かったですね。」

「そうだなぁ…ってそういう問題じゃねぇ!」

「おー、ナイス乗り突っ込みですねっ。あ、もしかしてコップも投げつければよかったんですか?そうか、スクアーロさんがいつもボスにグラス投げつけられていたのは決してヴァリアー内暴力ではなく、暑いであろう部下を思いやるボスの心遣いの表れだったんですね!」

「いや、ただの嫌がらせだろぉ。」

「あ、やっぱりそうでしたか。そうですよね、寒ーい冬場でもバンバングラス投げられてますもんね…。まぁ、結果的に少しでも涼しくなれば良いという方向で☆スクアーロさん、どうでしょう?」

「…言われてみれば、少し涼しくなった気がしなくもないなぁ。」

「じゃあ結果オーライですね☆」

「オーライだと思うかぁ?」

「凄く思います。YES、オーライっ!」

「そうかぁ。じゃあ…おらぁっ!」

   ビシャッ!

「おわっ冷たっ!何するんですか!?」

「打ち水だぁ」

「さっき自分で打ち水は地面に水撒くもんだって言ってたのに…しかもさっき、ぶっ、とかやってませんでした?!」

「近くにあったからなぁ。」

「理由になってませんよ。…ふー、無駄に疲れただけな気がします…。…スクアーロさん。」

「なんだぁ?」

「もうこうするしかありません…!文明の利器に頼りましょう!クーラーつけましょう!地球温暖化は切実ですけど、この部屋の温暖化も大問題ですよ!」

「付けるなぁ、余計に暑くなる。」

「何でですか?地球温暖化が進行するからですか?」

「いや…ソレがあるからなぁ。」

「…コレ、部屋の外に出しませんか?何で部屋のなかにあるんですか?しかも2台も?」

「XanXusの命令だぁ。」

「だからって…何でクーラーの室外機が室内に有るんですか!?涼しくなるわけ無いでしょう!!」

「多分嫌がらせだな…」

「なんて下らない嫌がらせだ!!」

「クソボスがぁ…」

「スクアーロさん、声に覇気がないです。相当弱ってますね。もっかい水かぶりますか?スクアーロさんは水中生物だから元気になるかもしれませんよ。」

「やめろぉ…」

「本当に死にそうですよ…うーん、じゃあ…。扇いで差し上げましょう。スクアーロさん、死にそうですし。」

「悪いなぁ…」

「それにしても、暑さでへばるなんてスクアーロさんらしくないですね。」

「ここ最近不眠不休で働かされてるからなぁ…」

「何でそんな事してるんですか、死んじゃいますよ?」

死にはしねぇが、」

「分かりました!手伝いましょう!」

「いや、お前はまず自分のを終わらせろぉ。」

「一応終わってますよ。後は書類の落書を消せば提出できます。」

「じゃあ早く消して終わらせればいいんじゃねぇかぁ?」

「いつもより上手く描けたから消すのが忍びないんです。何でそういう時のほうが上手く描けるんでしょうね?」

「知るかぁ。大体何で提出する書類にんなことしたんだぁ?」

「そこに紙があるから描くのです。」

「どっかで聞いたようなセリフだぜぇ。」

「そんなことはいいですから、早く寝てください!過労死しますよ?私なんか毎日最低8時間は寝てます。」

「とても暗殺部隊員とは思えねぇ生活リズムだなぁ。」
「スクアーロさんの生活リズムが乱れ過ぎなんです!さぁ、代わりますから退いて下さい。」

「…わりぃなぁ。」

「気にしないで下さい。そもそもスクアーロさんの補佐は私の仕事ですから。・・・お休みなさい。」

「あ゛ぁ。」

「…。」

「…。」

「…ぉ、隊長もう寝た。よっぽどつかれてたんだな・・・。髪が顔に掛かって窒息…はしないよね。…さて。」





初夏の午後。
ペンの走る音と小さな寝息だけが聞こえる部屋で。
漸く吹き始めた風が、カーテンを揺らした。
 

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