Long Love

□不必要可欠な助力
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「おい、大丈夫か?また腹か?」

「はい、すみません。まだちょっと…」

「そうか」

「あの、先生。スクアーロ君、お腹壊したみたいです。あんまり痛いからって帰りました」

「あいつも腹か。なんだなんだ、O-105でも流行ってんのか?ってお前は食中毒じゃなかったっけか」

「…そうかも知れませんね」





 遅れた理由をそう言い訳して教室に戻った。勿論、お腹なんかこれっぽちも痛くない。

 席について教科書を出す。

 スクアーロ君、大丈夫だろうか…?















 意識の戻らないスクアーロ君に、私はパニックを起こしかけた。死んじゃうんじゃないかと思って、ぼろぼろ涙が零れてきた。

 でも、横で泣いていてもスクアーロ君が治るわけじゃない。涙で命が戻るのはお話の中だけ。

 「あなたの判断で、救われる命があります」

 保健室前の掲示板に貼ってあった、応急処置のポスターを思い出した。

 そうだ、私が助けなきゃ。




「スクアーロ君!スクアーロ君!!」



 肩は傷があって叩けないから、腕を叩く。応答なし。口元に耳を寄せる。呼吸…弱いけど、ある。心拍、うん、しっかりしてる。

 無理に動かせば帰って悪化させてしまう。取り敢えず出血がひどいから、止血しなくちゃ。

 一番ひどい所は…わき腹だ。

 ハンカチでどうにかなるレベルじゃなかったから、スクアーロ君のずたぼろのワイシャツの端を使わせてもらう。それを傷口に当てて、手で直接押えた。いわゆる直接圧迫止血法。どくん、どくんと、スクアーロ君の鼓動に合わせて血が出る。

 どうしよう、このまま出血が続けば死んじゃう…!

 止まれ、止まれ、止まれ。念じながら。ぎゅ、と傷口を押さえつけた。




「…う”」



 スクアーロ君の口から、小さく呻き声が聞こえた。もしかしたら、止血が痛くて意識が戻ったのかもしれない。それなら結果オーライだ。




「スクアーロ君!スクアーロ君!」

「…あ”…?」




 薄く開いたスクアーロ君の目の焦点が少しずつ合わさっていく。




「てめぇかぁ…」

「うん、うん!」

「悪ぃ、なぁ”」




 私は必死に首を横に振った。折角もどった意識がまた闇に沈んでしまうことが怖かった。





「誰も呼ばねぇで手当てしてくれたのかぁ…すまねぇ」

「あ、そっか…!私動転してて…誰か呼ばなきゃ!」

「呼ぶなぁ!!」




 急に叫ばれて、体が竦んだ。叫んだのが傷に響いたのか、スクアーロ君が再び呻いた。どくり、と傷口から血が溢れる。




「叫んじゃ駄目!ねぇ、でもこのままだとスクアーロ君、」

「頼む」




 スクアーロ君の必死な目に、私は無意識のうちに頷いていた。

 スクアーロ君はそれを確認すると、止めるのも聞かずに立ち上がった。




「スクアーロ君!」

「…大丈夫だぁ、お前ももう教室戻れぇ」

「でも、」

「俺はしょっちゅうさぼってるから何とも言われねぇ」

「そういう問題じゃない!」




 スクアーロ君はふらつく足取りで歩き出す。





「私、保健室まで付いてく。」

「保健室には行かねぇ」

「え?」

「いいから戻れぇ」






 そう言われても、怪我だらけのスクアーロ君を置いて戻れるわけもない。そのまま彼の後ろを付いて行った。

 スクアーロ君は保健室ではなく、寮へ向かっているようだ。





「てめぇ、どこまで来る気だぁ」

「手当て手伝う」

「いてもいなくても変わんねえよ」

「でも途中でまた意識失くしたら困るじゃん。」

「…勝手にしろぉ」






 男子寮に入るのは初めてだ。作りは女子寮と変わらないな…あ、でもセキュリティーはこっちの方が緩い気がする。男子寮だからだろうか。

 




「おじゃましまーす…」





 スクアーロ君について部屋に入る。片付いてるなぁ…私も見習わないと。

 スクアーロ君は、真っ先に棚にある箱を取った。救急箱…かと思ったけど、違った。剣の手入れセットだった。





「剣はなぁ、血濡れのまま放っておくとあっという間に悪くなんだぁ。」

「…馬鹿か」

「んだとぉ!?」

「自分の怪我見ろこの馬鹿!どう見たってスクアーロ君の方が剣より重症だよ!」

「この位大した事ねえ」





 駄目だ、この人言葉が通じない。意識はしっかりしてるけど、まだふらついてるくせに。

 言っても聞かないので、私は勝手に救急箱を探すことにした。救急箱は、剣の手入れセットの入っていたのと同じ棚に収まっていた。勝手に取り出して、勝手に開く。





「スクアーロ君、動かないでね。」

「何……っっ!」




 染みたかな、そりゃ染みるよね、いきなり傷に消毒液ぶっかけたんだもん。残念ながら傷の手当てなんて擦り傷付き指、大きくてもせいぜい捻ったとかそれ位しかやったことが無い。




「ほらほら、スクアーロ君が自分でやんないと、私どんどん治療しちゃうよ?」

「…チッ。てめぇ手伝いに来たんじゃねぇのかよ」

「手伝ってんじゃん」




 スクアーロ君は舌打ちをし、渋々剣を置いた。普段のスクアーロ君だったらもっと反抗するんだろうけど、今のスクアーロ君はぼろぼろ。無駄な言い争いに割く体力は無いのだろう。

 スクアーロ君は、びっくりするくらい慣れた手つきで傷を治療していった。きっと、今まで何度もこうして自分の怪我を治してきたんだろう。






「スクアーロ君、いざとなったらお医者さんでも食べていけるね」

「誰が医者なんざなるかよ。俺は剣士だぁ」





 そうこうするうちに、あっという間に治療は終わった。スクアーロ君の言う通り、私はいてもいなくても良かったようだ。まぁ私がいなかったら間違い無く治療より剣の手入れを優先していただろうが、それでもだ。






「おら、もう帰れぇ」

「うん。」





 どうやら、もう大丈夫そうだ。さっきまでのようにフラフラはしなくなった。

 スクアーロ君はもう剣に手を伸ばして、手入れの続きを始めようとしている。私がいても邪魔なだけだろう。というか、私もそろそろ学校に戻らないとやばい。






「それじゃ、ばいばーい!」





 部屋を出るときに手を振ったけど、スクアーロ君は剣に意識を全部持っていかれているようで全然反応してくれなかった。まぁ、仕方がない。









 * * *







 そういうわけで、私は一人教室に戻ったというわけだ。スクアーロ君並みの頭の悪い言い訳をして。

 でもなぁ…やっぱり心配だ。

 今日はもう来ないだろうから、学校が終わったら見に行こう。

 そう、決めた。









 そう、決めたのに。




「おーい!スクアーロくーん!生ーきてーるかーい?!」




 放課後に訪れた男子寮では、何度ドアをノックしてもスクアーロ君は返事をしてくれなかった。

 事務の人が、スクアーロ君は丁度私と入れ違いに出かけて行ったことを教えてくれた。足取りはしっかりしていたという。






 それから三日間。私は一度もスクアーロ君を見なかったし、会えなかった。

 四日目も、スクアーロ君は学校に来ていなかった。でもその日は、スクアーロ君についての噂を耳にした。

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