困った。
スクアーロ君は学校に顔を出すと言った。それで何となく会えるような気がして、朝は早めに教室へ行った。でもスクアーロ君はいなかったんだ。時間が早いせいで登校している生徒も少なく、面白いことは起こりそうにもない。
退屈することほど私を困らせるものは無い。何もしないで過ごすのは嫌いだけど、残念ながらすることも見るものもない。仕方なく机に腰をおろして、ぼんやりと前を見ていた。こうして待っていればそのうちみんなも登校してくるだろう。スクアーロ君も。
「ねぇねぇ」
鈴を転がしたような可愛らしい声が聞こえた。私を呼んだみたいだ。振り返ると、声と同じくらい可愛い女子3名。クラスメートの子たちだ。
彼女たちのどこが素晴らしいかと言うと、可愛いだけじゃなくて性格もさっぱりしてて気立ても良いという所だ。こればかりは天性のものがあるから見習いたくても見習えない部分がある。
「ん?」
「スクアーロ君のこと好きって、本当?」
「うん、好き」
あれ?なんか不味いこと言った?私、ちょっと呆れられてない?
「…好き、ってどういう好きかちゃんと伝わった?」
「どういうって??」
「だめだこの子…」
「うあ…ダメな子の烙印押された…。」
「好きって、『LIKE』じゃなくて『LOVE』の方だよ?」
「『LOVE』?あ、うん『大好き』だよ」
「本当?!」
キャーっ!っと一気に盛り上がる三人。…あれ、私何か…?
そのテンションを見て、どうやら私が所謂『恋バナ』に参加しているらしいということが漸く分かった。
あれ?恋?
「ねねねね!スクアーロ君のどこら辺が好きになったの?やっぱり強さ?ルックス?」
「…面白い所?」
「聞き返さないでよ、私たちに分かるわけ無いじゃん」
「面白い所!」
「断言したね。でもスクアーロ君ってあんまりユーモラスな感じしなくない?」
「ユーモラスじゃないけど…面白いじゃん?」
「…は!それってスクアーロ君があなたにだけしか見せない一面?!」
「スクアーロ君は常に面白いと思うけどなぁ…」
それより、またキャイキャイしてる彼女たちが可愛くて仕方ないのですが。
今まで恋バナなんて参加したことが無かったから、どういう風にすればいいのかよく分かんない。一緒にキャイキャイすればいいのかな。あ、でもこれって可愛い子がキャイキャイするから可愛いんであって。
あれ?何で今恋バナに参加してるんだ?
「ところで、なんで今こんな感じの話題に?」
「そりゃ誰だって気付くよ。毎日毎日スクアーロ君の部屋に行ってんでしょ?廊下でもスクアーロ君って連呼してたじゃん。」
「それが、好きっていうことになるの?」
「好きなんでしょ?」
「うん」
私はスクアーロ君が好きだ。それは間違いない。じゃあ、これが恋なんだろうか。そもそも恋って何なんだろう。
それってやっぱり、いろんなものやことを「好き」だと思うのとは違うんだろうか。でも、どんなものに対する「好き」だってそれぞれ全部微妙に違った「好き」だ。
じゃあ結局、「恋」の「好き」って何だろう…?
「うんうん、悩め悩め、私たちは応援してるからね!いつでも相談して」
「ありがとう」
あぁ、三人がめちゃくちゃ頼もしく見える。そんでもってキラッキラに輝いて見える。何を相談すれば良いのかは置いといて、やっぱり優しい仔達だなぁとあったかい気持ちになった。
生徒の数はいつのまにか増えていて、時計を見ると予鈴までそれほど無かった。スクアーロ君はまだ来ていない。
早くこないと遅刻しちゃうよ?
可愛い3人の輪の中で、スクアーロ君が来るのを待っていた。
でもスクアーロ君は、予鈴が鳴っても来なかった。
寝坊?サボり癖のせいで起きれなかったのかな。
先生が来てもスクアーロ君は来なかった。
今日は来ないのかな。来るって言ったのに。もしかして怪我がぶり返したのかもしれない。
それとも、何かあったの…? だって、来るって言ったんだもん。
寝坊してるだけだと良いな、なんて思いながら、教室の入り口をちらちらと見ていた。
ショートホームルームが終わってもスクアーロ君は来なかった。
不意に背後から名前を呼ばれ、振り返る。私を呼んだのはスクアーロ君が道場破りをしていることを教えてくれた彼だった。
「おい!聞いたか?!」
「何を?」
「知らないか。その様子じゃ、中庭も見てね―みたいだな」
「ねぇ、何の話!?」
聞きながら、背骨に虫が這いあがるような、そんな気持ち悪い感覚を味わっていた。何?何なの?
「スクアーロの奴、今朝病院に担ぎ込まれたらしいぜ」
最初は、彼が何を言っているのか分からなかった。頭が拒否したがっていたのかもしれない。
「それでな、」
「どこ?!」
「?」
「どこの病院なの?!」
「この近くの、うちの学校と繋がってるでっかい病院。」
彼が言い終えた時には、私は走り出していた。
後ろで「走れ走れ」と言われた気がする。でもそんなことはどうでもよかった。