一日中病院にいた次の日。
学校に行くと、昨日話しかけてくれたキュートガールズ三人組に囲まれた。
「ちょっと!大進展してるじゃないの!!」
「…へ?」
「もう、いつの間に出来あがってたのよ!水臭いなぁ、教えてくれてもよかったのにー!」
「えー…と?」
一体何が出来あがったと言うのか、何を教えるのか。
「それにしても凄いなぁ、先生も公認のカップルなんて。」
「しかもつきっきりで看病!二人っきりの一日!甘いよ、少女漫画の世界だよ本当に!」
「私にもそういう彼氏できないかなぁ…」
「………・…………っはぁぁぁぁああああ???!!!」
彼女たちによると、どうやら私は愛しのスクアーロ君の負傷の報せに居ても立ってもいられずに学校を飛び出して駆けつけ、その熱意に心打たれた先生が一日看病することを許可した、ということになっているらしい。
…どっから出た情報だよ!!??
取り敢えず昨日の自分の行動を振り返ってみる。確かに心配で心配で仕方無くて学校そっちのけで病院には行った。行ったけど、何が甘いものか。一日中一緒にいたけど、そのほとんどはスクアーロ君の武勇伝を聞いて過ごした。とても面白かった。何があまいものか。
誤解を解くべく、彼女たちに本当のことを話した。夢を壊してしまって申し訳ないのだけど。
「なーんだ、そうなんだ。」
「うんうん、そうそう。」
「二人はらぶらぶカップルじゃなくてさっぱりカップルなんだ」
「そうそうさっぱり…だからカップルじゃないって!スクアーロ君が可哀想じゃんか!」
「ふーん、スクアーロ君が良ければカップルでもいいんだ。」
「なんでそうなる?!」
「「「恋バナしたいお年頃だからっ☆」」」
この子たち本当に可愛い、今素晴らしくキラキラしてる…。でも激しく誤解されてる。それから暫くの間、私は必死にあれこれ弁明した。そして分かった。恋バナしたいお年頃の可愛い女の子たちは強いということ…。
今日も、お日様がポカポカと温かいな…。
数分にして私は悟りの境地に至った。
どうやら私はスクアーロ君に恋しているらしい。それでいいことにした。
* * *
放課後、一日中病室に缶詰で退屈しているであろうスクアーロ君の所へ顔を出した。
でも、やっほー!と部屋に入ると、スクアーロ君は小さく寝息を立てて眠っていた。きっと寝る以外にすることが無かったんだと思う。起こすのも悪いし、暫く様子を見ることにした。壁に寄せられたパイプ椅子を引っ張ってきて枕元に座った。
スクアーロ君って、目を閉じてると普段より大分幼く見える。ぴりぴりした雰囲気が無いのも理由の一つなんだろうけど。綺麗な顔してるな、本当に。
それにしても、ここって空調設備ばっちりなんだな…暑くも寒くもないや。そのせいか、少しずつ瞼が下がってくる。お腹のあたりがぽかぽかして、だんだんぼんやりしてく…。
* * *
遠くから聞こえるように、霞んだ声が聞こえる。誰の声か思い出せない。でも、凄く懐かしい感じがする。聞いているだけで、その声の人が凄く大切なんだな、って思う。
私は泣いていた。それから、声から遠ざかるように走った。
何で?その人に会いたいんでしょ?そっちじゃないって!
誰の声?どこで聞いたの?
私、私は…
* * *
「う”ぉぉぉい」
「…んむ…」
「う”ぉぉぉぉい!!てめぇいつまでここにいる気だぁ!!もう日暮れてんじゃねぇかぁ!!」
「っおわっ!!」
大音声にたたき起こされてみれば、私は床に転がってぐっすりと眠っていた。横には転がっているパイプ椅子。…もしかして、寝ちゃって転がり落ちたの?ださっ!それで体が痛かったのか…。
「『おわっ!!』じゃねぇよ。どんだけ熟睡してんだぁ?椅子から蹴り落としても起きねぇしよぉ。」
「 お 前 か ! 」
よかった、私は自分で椅子から落ちるようなへまはやらかしていなかった。それから、相変わらずスクアーロ君が無茶苦茶だ。起こしてくれたのはありがたいけど、なにも蹴ることは無いと思う。
「で、てめぇは何しに来たんだぁ?」
「お見舞い?」
「…俺に聞くなぁ…」
「きっと退屈してると思ったから寄っただけだよ。特別な用事とかは無いなー。」
「暇な奴だな」
「失礼な、来てあげたのに!」
「まぁ、確かにおかげで退屈はしなかったぜぇ」
「…?」
「お前、変な夢見てただろぉ?」
「夢なんか見たっけ。」
「『なまこバスタァァァ!!!』っつって腕振り回してたぜぇ?」
「…嘘だぁぁぁぁぁ!!!!」
「嘘だけどなぁ」
「誰?!ねぇスクアーロ君ってば君本当に誰だよ?!」
「スクアーロ」
知ってますとも!それ位!
「そう言えば、スクアーロ君今日は怪我はしなかった?」
「一日中寝かされてんだぁ、しようったってできねぇ」
「よしよし、良い子良い子」
「そう言うてめぇはどうなんだよ?」
ぴーんと腕を伸ばしてピースして見せる。スクアーロ君みたいに喧嘩漬けの毎日送ってるわけじゃないから、当然といえば当然なんだけどね。というか世の多くの人はそうだと思う。
「無論無事!」
「…俺の勝ちだな」
「…ごめん、幻聴聞こえた。」
「肘見てみろぉ」
「肘?」
「そっちじゃねぇ、逆だぁ」
逆の肘…?言われたとおり、差し出した手を引いて確かめる。手を突き出したせいで袖は肘までまくれていた。
「あ…。」
「コ●ラでいい。」
スクアーロ君が楽しそうに言う。
私の肘はうっすらと赤みが射していて、ほんの少し皮がむけていた。
あ…。こっち側ってことは。さっき椅子から落ちた時か!!だとしたら、スクアーロ君の仕業だよね。私、怪我要因0だったよね?!
違うんだけどなぁ…。釈然としない思いで自動販売機にコカコ●ラを買いに行った。振ってから渡そうかと思ったけど、今吹きこぼしたら大変なのは看護師さんだろうから普通に渡した。
少しは薬になるかもしれないと思ったこの『勝負』は、何の成果もあげないままあっけない終幕を迎えてしまった。
余談だけど、真っ暗になってから帰った私は女子寮の寮母さんにそれなりに怒られて、部屋に入るのに30分はかかった。