居候

□接近
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 翌朝レインが目を覚ますと、妙に体が強張っていた。

 そうだ、昨日はあの人にベッドを貸してソファに寝たんだっけ。

 体を起こすと、スクアーロが見当たらない。立ち上がって探しまわり、ベッドの横で体を丸めて眠るスクアーロを発見した。昨日はレインが寝た後もずっと彼女の様子を見ていて、そのまま眠ってしまったのだろうか。

 何となく居づらくなってレインが背を向けると、背後で物音がした。

 振り返ると、丁度彼女が起き上がるところだった。

「おはよ」

「ファルコ、起きたかぁ。」

「う”、うぅ…」

 スクアーロも起き上がりながらファルコに声をかけた。







 …この人が起きれば、スクアーロも起きるんだ。






 じっと見ていると、視線を感じたのだろうか。スクアーロよりも先に、女の人のほうがレインに気がついた。

「あの、おはようございます。昨日は、」

「あ、いいよいいよ。私は何にもしてないし。そこのロン毛が全部やったからさ。」

 不機嫌そうに聞こえた自分の声にレインは驚いた。

 彼女の声が可愛らしいから、自分の声が比べてそう聞こえるのだろうか。それとも…?

「でも、」

「私、用事あるから出かけてくるね。あ、良くなるまでゆっくりしてていいよ。そこのロン毛は自由に使って。」

 何かを告げようとする彼女の言葉をレインは遮った。意図していたわけではなかったのに、それは酷く意地の悪いもののように響いた。

「う”ぉぉぉい、レインてめぇ、」

「じゃ、行ってきます。」

 レインは振り切るようにそう言うと、携帯だけを掴んで飛び出した。









 取り残されたスクアーロは呆然とレインの消えたドアを見つめた。

「何だぁ?レインの奴…パジャマのままでどこに行くっていうんだぁ…」

 これまでレインがスクアーロに対してあのような態度をとったこと等一度もなかった。誓いとともに伸ばしているこの髪のことだって、あんな言い草はない。

 動けないでいるスクアーロを、ファルコは呆れたように見つめた。

「スクアーロ。」

「…あ”?」

「久しぶりに会って助けてもらったうちが言うのもなんだけど…相変わらず馬鹿?」

「んだとっ!?てめぇに言われたかねぇ!」

「まぁ、スクアーロが気づいてないんなら、うちが口を挿むようなことはしないけど。」

「何のことだぁ?」

 ファルコはそれには答えず、コロンと横になって布団にもぐりこんでしまった。

「う”ぉぉい、だんまりかぁ?」

「自分の彼女のこと位自分で気づけ、カス。」

「な”ぁ?!う”ぉぉい、レインが」

「うちはもう少し寝る。スクアーロの彼女さんは良くなるまで居てもいいって言ってくれたし。」

「もうぴんぴんしてんじゃねぇかぁ!!とっとと帰れぇ!!」

 ファルコはもそもそと布団から顔を出した。

 何か言ってやろうと身構えていたスクアーロだったが、ファルコの顔を見て言葉に詰まった。





 その目は、今にも壊れそうで。

 自分がそんな目をしていることを、ファルコは気づいているのだろうか?





「あのさ、スクアーロ。図々しいことは良くわかってる、でも。暫くここに居させてほしい。」

「…レインに聞けぇ。」

 スクアーロは断ることも受け入れることもできずに回答を先延ばしにした。






 昨日からのレインの不調。

 ファルコとうまが合わなかったのかぁ?大抵の人間とは、無理をしてでも合わせるレインが、かぁ?ファルコが悪い奴じゃないこと位分かっているだろうに。

 そのことを考えると、ファルコをここに置くことを即決することはできない。

 かといって、すぐに断ってしまうことも出来かねた。

 確かに、昨日の弱弱しい表情は消し、今は威勢よく振舞っている。けれどファルコのそれは明らかに虚勢。このまま外に放り出してしまうにはあまりにも不安定だった。







 スクアーロにとって、ファルコは大切で、特別な存在だった。
















 今までもこれからも、ファルコはスクアーロの大切な幼馴染だ。



 
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