居候
□接近
1ページ/3ページ
翌朝レインが目を覚ますと、妙に体が強張っていた。
そうだ、昨日はあの人にベッドを貸してソファに寝たんだっけ。
体を起こすと、スクアーロが見当たらない。立ち上がって探しまわり、ベッドの横で体を丸めて眠るスクアーロを発見した。昨日はレインが寝た後もずっと彼女の様子を見ていて、そのまま眠ってしまったのだろうか。
何となく居づらくなってレインが背を向けると、背後で物音がした。
振り返ると、丁度彼女が起き上がるところだった。
「おはよ」
「ファルコ、起きたかぁ。」
「う”、うぅ…」
スクアーロも起き上がりながらファルコに声をかけた。
…この人が起きれば、スクアーロも起きるんだ。
じっと見ていると、視線を感じたのだろうか。スクアーロよりも先に、女の人のほうがレインに気がついた。
「あの、おはようございます。昨日は、」
「あ、いいよいいよ。私は何にもしてないし。そこのロン毛が全部やったからさ。」
不機嫌そうに聞こえた自分の声にレインは驚いた。
彼女の声が可愛らしいから、自分の声が比べてそう聞こえるのだろうか。それとも…?
「でも、」
「私、用事あるから出かけてくるね。あ、良くなるまでゆっくりしてていいよ。そこのロン毛は自由に使って。」
何かを告げようとする彼女の言葉をレインは遮った。意図していたわけではなかったのに、それは酷く意地の悪いもののように響いた。
「う”ぉぉぉい、レインてめぇ、」
「じゃ、行ってきます。」
レインは振り切るようにそう言うと、携帯だけを掴んで飛び出した。
取り残されたスクアーロは呆然とレインの消えたドアを見つめた。
「何だぁ?レインの奴…パジャマのままでどこに行くっていうんだぁ…」
これまでレインがスクアーロに対してあのような態度をとったこと等一度もなかった。誓いとともに伸ばしているこの髪のことだって、あんな言い草はない。
動けないでいるスクアーロを、ファルコは呆れたように見つめた。
「スクアーロ。」
「…あ”?」
「久しぶりに会って助けてもらったうちが言うのもなんだけど…相変わらず馬鹿?」
「んだとっ!?てめぇに言われたかねぇ!」
「まぁ、スクアーロが気づいてないんなら、うちが口を挿むようなことはしないけど。」
「何のことだぁ?」
ファルコはそれには答えず、コロンと横になって布団にもぐりこんでしまった。
「う”ぉぉい、だんまりかぁ?」
「自分の彼女のこと位自分で気づけ、カス。」
「な”ぁ?!う”ぉぉい、レインが」
「うちはもう少し寝る。スクアーロの彼女さんは良くなるまで居てもいいって言ってくれたし。」
「もうぴんぴんしてんじゃねぇかぁ!!とっとと帰れぇ!!」
ファルコはもそもそと布団から顔を出した。
何か言ってやろうと身構えていたスクアーロだったが、ファルコの顔を見て言葉に詰まった。
その目は、今にも壊れそうで。
自分がそんな目をしていることを、ファルコは気づいているのだろうか?
「あのさ、スクアーロ。図々しいことは良くわかってる、でも。暫くここに居させてほしい。」
「…レインに聞けぇ。」
スクアーロは断ることも受け入れることもできずに回答を先延ばしにした。
昨日からのレインの不調。
ファルコとうまが合わなかったのかぁ?大抵の人間とは、無理をしてでも合わせるレインが、かぁ?ファルコが悪い奴じゃないこと位分かっているだろうに。
そのことを考えると、ファルコをここに置くことを即決することはできない。
かといって、すぐに断ってしまうことも出来かねた。
確かに、昨日の弱弱しい表情は消し、今は威勢よく振舞っている。けれどファルコのそれは明らかに虚勢。このまま外に放り出してしまうにはあまりにも不安定だった。
スクアーロにとって、ファルコは大切で、特別な存在だった。
今までもこれからも、ファルコはスクアーロの大切な幼馴染だ。