永遠の自由落下
□入隊
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かちり、かちり、かちり・・・
古めかしい壁時計が、ゆっくりと時を刻む。安っぽい椅子に座ってそれを見つめる、サングラスのオカマが一人。
彼…彼女は新入隊員の面接という激務に疲弊しきっていた。
通常VARIAの隊員になるにはスカウトされるか、紹介や推薦をされるしかない。
また、もともと少数精鋭の部隊のため、それらの機会も滅多になかった。
しかし、今回は特例。
つい先日、八年もの永い休止期間を抜けて活動を再開したVARIA。
『揺りかご』以来、VARIAの隊員数は減ることはあっても、増えることは決して無かった。
人員補充の為、VARIAはたった一度だけ、短い期間隊員の募集をすることを決定した。スカウトでは追い付かないためだ。
その責任者として選ばれたのが、VARIAのお母さんこと、ルッスーリアと言うわけである。
希望者は立候補する意思さえあればよい、というような緩い参加資格であるのは、より多くの優秀なものを集めるため。それでも、反乱後は待遇の悪くなったVARIAに、進んで入ろうとするものは多くはなかったのだ。
スカウトに引っ掛からない、即ち力の見えにくい原石のような隊員たちの力を見定める仕事は困難を極めた。
けれどそれも、秒針が後一周すれば、おしまい。そうすれば、休もうが筋トレしようが買い物に行こうが彼…彼女の自由。もうこれ以上誰も来ないことを彼…彼女は望んでいた。
かちり、かちり、かちり・・・
面接終了まで後三秒、二秒、一秒、「失礼します!」
勢いよく扉が開き、少年が息を切らせて飛び込んできた。
ぴぴー、ぴぴー、ぴぴー・・・
時計のその古めかしい見た目に似合わず、近代的なアラームの音。そして、
「…やっと終わったわぁ!」
面接官はこれ以上の合格者を出すつもりは無かった。
面接官は、その少年を見なかったことにした。今日1日の面接で、人員は十分すぎるほど確保できていた。
少年は無視されていることなど全く気に掛けずに、面接官の言葉を待った。面接官のものよりさらに安っぽい、今にも自壊しそうな椅子の横に直立不動で。
鈍い仔は好きじゃないのよね。
心の中で呟き、面接官は少年に背を向けた。体の力を緩め、自然体をとる。そして軽く息を溜め…空中へ鋭い蹴を繰り出す。返す足でもう一撃放ち、その足が地に付くと共に体を捻り、逆の足を高く蹴りあげる。
面接官は、シャドームエタイを始めていた。その頭上に浮かぶのは『現実逃避』の四文字。
「美の秘訣は毎日のトレーニング、それから食事と睡眠よ」
誰に言うでもなく呟き、面接官はまた一つ型を決める。