永遠の自由落下
□挨拶
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一体俺に、どうしろというんだ。
ここはVARIA本邸の裏。さっきまで剣をかわしていた新米隊員は身分詐称のことを告げた後再び泣き始め、なかなか泣きやまない。
放っておこうか。とも思ったが、聞きたいこともある。
泣くまで待ってやろうと思った。泣いている奴にかける言葉なんざ知らねぇ。
脱水症状になるんじゃねぇかと心配になるくれぇ泣いている新米と、手持無沙汰に座って待つ俺。
そして、今に至る。
ぼんやりとしていると、泣き声が止んだことに気づく。新米のほうに目をやると、少しは落ち着いたらしい。まだ鼻をすすったりはしていたが、何とか会話はできそうだ。
「う”ぉぉい、ちったぁおちついたかぁ?」
新米は真っ赤にはれた目でこちらを見上げ、
口を動かした。泣いていたせいか声がかすれ、声になっていない。口の形からして、「はい」とでも言ったのだろう。
「…何故あんな嘘をついた。」
聞きたいことは沢山あったが、一応俺はコイツの上司だ。やはりそれを1番に聞くべきだろう。
「 」
新米は何か言ったが、まだ声がかすれている。けほけほと咳をしているところを見ると、相当喉にきているらしい。
新米はさらに数回咳をして、もう1度話し始めた時には、なんとか聞き取れるようにはなっていた。
「VARIAには、男じゃないと入れないって言われたんです。」
「はぁ”?んな話きいたことねぇぞぉ?」
「…え?!」
新米は、ひどく驚いた顔をした。
「でも、先生が、「女にVARIAは無理だ、まず試験に受からない。」って・・・。だから、男だったら大丈夫かなぁ、と…」
「VARIAには性別で入隊を制限するような決まりはねぇ。実力勝負だぁ。」
「でも、実際VARIAに女性隊員はいないって…」
「ここは男ばっかだからなぁ。ボスもあんなだし、大抵は本部への移籍を希望すんだぁ。ボスはそれを止めねぇし、本部のほうも断らねぇから、それで女がいねぇだけだ。」
その面倒な移籍の事務処理を何度クソボスに押しつけられたことか…。
そう零すと新米は、ご愁傷様です、と心底心配そうに言った。そして、
「?じゃあ私の変装劇は…。」
「無駄だったな。」
ぅぁああああああ、とか言いながら、分かりやすく落ち込んだ。頭を抱えたまましゃがみこむなんて、いつの時代の落ち込み方だよ。いちいちオーバーな奴だ。まぁ、マフィア連中の腹ん中で何考えてっかわからねぇ奴らより、数段マシかぁ。
「…VARIA、短い間ですが、楽しかったです。」
しゃがみこんだまま顔を上げて、新米はそう言った。
「は?なんの話だぁ?」
「VARIAの入隊試験に受かったのはハヤブサであって、私じゃありません。」
すっかり声のかすれの治った新米は、とても悲しそうに言った。
「ここに隊員でも客人でもない私の居場所はありません。出て行きます。」
「誰が出て行けと言ったぁ?」
新米は、不思議そうに首をかしげた。
「とりあえずついてこい。」
俺は返事も聞かずに立ち上がって、屋敷に向かって歩き始めた。
振り返らなくても、あいつのことだからついてきているだろう。
影は、朝来た時とは反対方向に伸び始めていた。