永遠の自由落下


□微動
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 9月16日、朝。

 ぴぴぴぴぴぴと電子音を立てて時を告げた腕時計のアラームを止めて額の汗を拭う。全身ぐしょぐしょで拭った所でどうにかなるものでもないけれど、気持ちの問題。

 今日の朝練、おしまい!

 気が済むまで振り回した愛刀を鞘におさめて屋敷の中へ戻る。

 まだ早い時間帯だったため、使用人の人たちにしか会わずに自室まで帰ってきた。







 さっとシャワーを浴びながら考える。

 今日はどうしようか。昨日は今日の予定について何も言われなかったけど。何時にどこに行くだとか、こういう任務があるだとか。

 食堂に朝ご飯食べに言ってから考えよう。もしかしたらそこでスクアーロ様に会えるかもしれないし、隊員共通の行動パターンみたいなものを教えてもらえるかもしれない。

 試着の時にしか袖を通したことの無い隊服に手を通しながら、ぼんやりと今日の一日を思い描いてみた。












 * * *









 お!

 ぐっどたいみーんぐ!

 食堂に行く途中に、スクアーロ様とばったり出くわした。ウィスキーの匂い…。何となく、スクアーロ様がどこに行っていたのか予想がついた。






「おはようございます。朝から大変ですね…」

「全くだぁ、クソボスの奴……そうだぁ、丁度いいときに通りかかってくれたなぁ」





 褒められた!!





「ちっとばかりここを空ける。半日もあれば終わるだろうがなぁ」

「その任務に同行するのですか?」

「いや、俺一人で十分だぁ。つーわけで、暫く俺の隊の指揮はクソボスが直接執ることになった。」

「はい!」

「とはいうものの、あの御曹司が自ら細かい指示を出すことはしねぇ筈だぁ。細かい指示はてめぇに任せる」

「はい!」







……………







「ぇぇぇぇええええええ????!!!!」

「できんだろぉ?」

「でも私経験が皆無に等しいですし、隊員の皆さんとだってまだ、」

「出来るか?」

「…出来ます。」

「よぉし」






 スクアーロ様は満足そうに笑い、「任せたぞぉ」と言いながら行ってしまわれた。






 すれ違いざまに、私の頭をぽんと叩いて。








 …頑張ろう。何か頑張れる気がしてきた。








 あ、もっと詳しく聞かなきゃいけないことが沢山あったのに…

 そう思った時には既にスクアーロ様の姿は見えなかった。










 * * *








 何をすべきか分からない私は、取り敢えず暫くの間は直属の上司であるザンザス様の元へ足を向けた。

 ノック。

 返事はない。

 もしかして、出かけていらっしゃるのだろうか。それともまだ眠っていらっしゃるのか。いやでもスクアーロ様とさっきまで話していらっしゃったわけだから少なくとも起きていらっしゃってて。でもここにいらっしゃらなければザンザス様の居場所なんか見当もつかないし、もしかしたら私は無視されているのかも、いや今のノックが聞こえなかっただけで、それとも無言は肯定の証になっ
 





「いつまでそこにいる気だ。用があんならとっとと入ってこい。」

「はい!」





 
 よかった、ここにいらっしゃったんだ!

 一礼して戸をくぐり、ザンザス様が足を乗っけている巨大なデスクの前へ進み出る。

 紅玉の瞳に射抜かれる。その目を逸らしもせずに、ザンザス様は無造作にデスク上の書類の束から数枚を抜き取り、ずいと差し出した。





「カス、今日の任務だ。」

「はい!」





 デスク越しに手を伸ばして書類を…

 …だめだ、デスクの奥行きが長すぎて、デスク越しに書類を受け取れない…

 短い手足を呪いながらデスクを回り込んで、すぐ近くに行って受け取る。








「おい、カス」

「?」

「…いや、なんでもねぇ」









 それからザンザス様は瞼を下ろし、腕を組んだまま動かなくなってしまった。

 はて、これは退室すべきなのだろうか。一つも指示は貰ってないけど…

 これも、昨日の任務と同じで私の実力テストを兼ねているのだろうか。







「失礼しました。」






 分からないけれど、取り敢えず退室した。だって、ザンザス様寝ているみたいだし…

 ふむ、ご飯の前に目を通した方が良いかな。

 書類を繰りながら、食堂に向かった。













 天音のいなくなった部屋で、ザンザスはくわぁ、とネコ科の動物のような欠伸を零した。
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