永遠の自由落下
□仕掛
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ルッスーリアが出ていった部屋に残されたのは、整然とした、しかし無機質な部屋、そして動けない俺。痛む肺が呼吸を拒み、息苦しい。
医療班によれば、奇跡的に骨は無傷で3日もあれば普段通り動けるようになるらしい。
黙って天井を眺めていると、先程までの後ろ向きな思考が薄らいでいることに気付く。残っているのは、アイツらへの怒りと、一暴れする前の血の滾りだけ。こうしてじっとしているのがもどかしい。早く、この剣で…
だめだ。これ以上、迫るクーデターのことを考えるのは、動けない身には酷だ。
とはいえ、他に考えるようなことは持ち合わせていない。元々考え事なんて柄じゃねえ。ぼんやりとしているうち、思考は再び戦場―――並盛へと舞い戻る。
…ああ、そうだ。もう一つ残っている。今のうちに考えておかなきゃなんねえことが。
退室する俺を引き留めてザンザスが言い放った言葉の意味。
「んだよ…早く済ませろぉ、誰かのせいで体がきついんだよ」
「目障りな鼠が潜り込んでやがる。」
「…情報漏れかぁ。どうすんだぁ?」
「かっ消せ」
「だろうなぁ。どれが鼠か分かってんのかぁ、御曹司さんよ」
「まだ尻尾は出してねえ。てめえで引き摺り出せ」
「チッ、厄介なこと押しつけやがる…」
「ジャッポ―ネに発つ前までだ。殺れなきゃ、てめえを消す。」
この時期に情報漏れと言うことは、リングに関わることだろう。となると、裏で糸を引くのは大方本部か門外顧問か。金で釣ったのか、端から伏兵だったのか。
VARIA内に裏切り者がいることに驚きは感じない。この世界じゃざらにあることだ。にしても、良い気はしねえ。
カス相手に信頼だの信用だのがあるわけじゃねえ。ただ、8年間同じ境遇で主人を待ち続けた。赤の他人とは言えない。
犯人が分かれば、俺は喜んでそいつを斬る。たかだか8年で揺らぐような忠誠心など、ちゃんちゃらおかしい。
もしくは、もしかすると。ことを起こしているのは、ゆりかご以来の隊員ではないかもしれない。そうなれば、対象は一気に狭まる。ゆりかご以降入隊したのは、一人しかいない。
天音、だ。
天音の入隊と、情報の流失が始まった頃はほぼ重なる。
それに、天音にはまだ尋ねていないことがある。
初めて剣を交えたあの夜、森の中で何をしていた?奇怪な格好をして?
一応ルッスーリアにも、あの夜のことは話した。
まだ斬るな、と言われた。証拠が挙がるまでは、無駄に人員を減らすなと。
言われて初めて、生ぬるい考えに気付いた。疑わしきは切り捨てれば良いものを、そんなことは考えもしなかった自分に。
錆びついたのか、8年で。そんな筈はない。分からないことを残したまま、それが闇に消えるのが気に食わないだけだ。
ごちゃごちゃ考えていると、余計に分からなくなる。
止めだ、止め。餌をまいておけば、そのうち向こうから動きだすだろう。そうしたら、誰であろうと遠慮なくぶった斬る。それでいい。
思考を無理矢理遮り、腫れた瞼を下ろした。今は何より、回復だ。ジャッポ―ネに立つまでにもう一仕事あるのだから、3日なんて悠長なことは言っていられない。治ろうが治るまいが、明日には行動を起こさねえと間に合わねえ。
もう、失敗はできねえ。
大体、ザンザスは何故俺にこの仕事を任せたのか。こういう仕事に関しては、
俺より、レヴィなんかにやらせた方がよっぽど適任だ。そんな考えも押し込めて、眠くなるのを待った。