スクアーロ短夢

□Cafe?
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「王子腹減った。」

「んなもん知るかぁ!屋敷まで位我慢しろぉ!」

「…。」

「う”ぉぉい、無視してんじゃ…っててめぇどこ行く気だぁ!?」




 返事と気配の無いベルの方を振り返ると、我儘王子は数メートル後方のカフェに入ろうとしていた。平日の昼下がりの為かさほど混雑はしていないようだ。




「見りゃわかんだろ。王子腹減ったし、ここの店の名前気に入った。」

「『王子のおやつ』…センス疑うぜぇ」




 カラカラン。ベルがドアを押し開けると軽い音がした。落ち着いた雰囲気の店内は木目調で統一されていて、割と居心もいい。評判もいいのだろう、入ってみると外から見た以上に人が入っており、空席は無かった。席がないなら、空席を待つより屋敷に帰った方が早い。どうせ帰れば軽食でもドルチェでも食事でもすぐに用意されるのだ。このクソガキにしたって、『待つ』ことができるとは到底考えられない。

 ウェイトレスが席の案内にやってきた。帰るぞ、とベルに目配せを…する前にベルはウェイトレスの横をすり抜けて席の方へ行ってしまった。




「お客様、大変申し訳ありませんが…」

「何お前、王子になんか文句あんの?」




 制止に入ったウェイトレスが固まる。そりゃそうだ、堅気がVARIA幹部の殺気に中てられればなぁ。




「う”ぉぉい、ベル!一般人相手に殺気出してんじゃねぇぞぉ!」

「ししっ、そー言うスクアーロの方が怖がられてんじゃん」

「あ”?俺のはお前に向けた殺気だぁ、この場合勝手にビビる奴の方が悪ぃ。」

「うっわー、頭悪ぃ理論。流石カス鮫、ボスに物投げられ過ぎて少ない脳細胞がさらに減ったんじゃねぇの?」

「こんの…!!!」

 


 一発ぶっ飛ばしてやろうと拳を固めたが、ここが真昼間のカフェだということを思い出してその手は上げずじまいだった。ベルは最初からそうなることを予想していたのか、むかつく笑い方をした。…どうして俺がこんな喰えねぇクソガキのお守しなきゃなんねぇんだ。

 ベルは俺をからかうのに飽きて、店の一番奥の席へ向かった。




「やっぱりな、ここ空いてんじゃん」

「どう見ても中座だろぉ?食器も荷物もあんじゃねぇかぁ。」

「関係無いし。今座って無いそいつが悪い。俺王子だし、王子が空席待つとかあり得ないし?」




 空席一つ待てない王子と言うのも大いに問題があると思う。が、あえて言うことはしない。屁理屈でコイツに勝つなんて不可能だからなぁ。ベルがその席に座ってしまったので、仕方なしにその向かいに腰掛ける。置いて帰りたいのは山々だが、こいつが問題を起こした時に監督不行き届きでザンザスから暴行を受けるのは俺に決まっている。面倒でも見張っていた方がいいだろう。今こなしてきた任務なんかよりコイツの方がよっぽどめんどくせぇ。

 隠しもせずにため息をつく俺に気付いているのかいないのか、ベルは上機嫌でメニューにケチをつけている。そりゃあ、贅を尽くした食事しか喰わないベルから見れば庶民向けのカフェは安っぽいだろう。

 漸く注文を決めたベルは、さっき睨まれたせいで怯えているウェイトレスを呼びつけて山のように注文した。どうせ一口ずつ口をつけて残すんだ、このクソガキは。

 哀れなほど怯えているウェイトレスは俺にも注文が無いか確かめた。時間をつぶすためにコーヒーを一杯頼んだ。 




「食える分量以上に頼むんじゃねぇ」

「いいじゃん、金は払うんだし」




 人のこと言えた義理じゃねぇが、大分残念な育ち方をしている。暗殺者と言えど、最低限のマナーくらい守れ。

 ベルが何かしでかさないよう見張りながら、少し気を緩めた。窓から通りを眺めれば、普段俺たちが過ごしているのと同じ国とは思えないくらい平和な光景。退屈過ぎて欠伸が出る。




「あの…」




 声に顔を店内に戻すと、女が席の前で妙な顔をして立っている。ここに座っていた奴だろう。




「ん?お前何?」

「ここに座ってた奴だろぉ、普通に考えて」




 退く気配の無いベルに女は困ったように眉を寄せた。




「お前食べかけなんだろ?王子優しいから、そこで食べるの許してやってもいいぜ?」

「何で上から目線だぁ、元々コイツの席だろぉ」

「えーと…じゃあ、ここで食べさせていただきます。」




 そう言って女は恐る恐る席に腰を下ろした。こんな奇抜な格好をした見知らぬ男二人と普通に飯を食えるコイツの度胸に少し感心した。普通断るだろぉ。

 女は成人しているかどうかというところで、化粧をしていない顔には幼さが残っている。目の前の俺たちのことは全く気にせずに食事を再開している。随分うまそうに食っているが、それほどここの料理はうまいのだろうか?

 暫くして俺にはコーヒーが、ベルの元へは大量の料理が運ばれ始めた。案の定一口、多くても二、三口ずつ食べては次の料理に手をつけている。それなりにうまいコーヒーを少しずつ口にしながら食事をしている二人を眺める。




「うまいかぁ?」

「微妙」




 ベルが『微妙』ということは、まあそこそこうまいんだろう。料理が出揃うのとほぼ同時にベルは食事を終えた。席を立った俺たちにウェイトレスが駆け寄る。喰い逃げされるとでも思ったのだろうか。そう考えるのは当然か。ベルはカードを取り出して放った。何色のカードかは言わなくてもいいだろう。

 同席だった女はまだ食べ終えていなかった。




「邪魔して悪かったなぁ。」

「いえ、大丈夫です。」




 女は本当に気にしていないことを示すために大きく首を振った。

 会計を終えたベルは、俺を待つはずもなくさっさと店を出て行ってしまった。

 今度、ルッスーリアにでもベルの再教育をさせよう。迷惑を被るのは他の隊員だ。

 ベルを追って店を出ると大して時間は経っていなかったらしく影の長さはほとんど変わっていなかった。




「う”ぉぉい、もう少し何とかなんねぇのかぁ」

「何がだよ」




 次の任務は、是非ともコイツとは別々に行きたい。だめもとでザンザスに掛けあってみるかぁ。
 
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