スクアーロ短夢

□君の為に
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「う”ぉぉ[ぐわっしゃぁぁん!!]…XANXUSてめぇ!最後まで言わせろぉ!つーかグラス投げんじゃねぇ!!」

「あ”ん?てめぇこそいい加減静かに入室できるようになれ、ドカスが。」

「…チッ、まぁいい…ボスさんよぉ、明日は休ませてもらうぜぇ」

「任務はどうする。」

「天音がいる。俺がいなくても大丈夫だろぉ」

「…女か」













「…あ”ぁ」











 * * *









 快晴、快晴、快晴!!

 今日は大雨と報じていた天気予報のお姉さんの言葉を大きくひっくり返して、雲一つない快晴!!

 真っ青な空の下、たった一人でおしゃれな街を歩く私は泣く子も黙るVARIAの一員。

流石はイタリア…街ゆく人々が一々美男美女!

…おかしい。私の精一杯おしゃれが必要以上に貧相に感じる。いやもう寧ろオシャレが部屋着以下にしか見えない。何これ、動きにくいだけですか。なんでだ。

これ、私は断じて悪くない。そうともこの街の異様な迄に高すぎる美的偏差値がいけない。

 恥じるな自分!!ここに来た目的を思い出せ!!ファッションショーをしに来たんじゃないだろ?寧ろ逆だ、逆。








 私がここに来た目的。それは、一人一人に専属スタイリストがついてるんじゃないかって位の皆様を研究し、地下二万フィートに達しようかというほど低迷しているセンスを磨くこと。

生まれつきの容姿はどうすることもできない。知ってる。だかしかーし。センスだったら磨けば、勉強すれば多少はよくなる。はず。きっと。そう信じたい。





…あー、もう泣きたい、泣いてしまおうか。





 何で今更そんな無駄な足掻きをしているのかって?






 無論、スクアーロ様のため、だ。

 誤解を招きそうだから言い改めよう。正しくは、スクアーロ様の横にいても恥ずかしくない立派な部下になるため、だ。




 スクアーロ様。




それはもう素敵な方で、私の上司なんかにしておくには勿体無い位の御方。一々どこがどう素敵なのかを語ることはしない。

今までは一生懸命仕事を頑張ることがお世話になっているスクアーロ様への一番の恩返しになると思っていた。し、実際そうだ。





そうなんだ、けど。





どうもそれだけでは、大いに不足らしい。

 この前、幹部のベルフェゴール様に言われてしまったのだ。







「ししっ、スクアーロも可哀想だよな





補佐が天音じゃ。」







 その真意を問いただす間もなく自由人のベルフェゴール様はいなくなってしまった。





 補佐が私のせいで、スクアーロ様が可哀想。





 どういうことだ。

 仕事の能力には自信がある。スクアーロ様も「助かるぜぇ」って言ってくれるし、ベルフェゴール様だって(一応)認めてくれている(はず)。大体私を補佐に指名したのはスクアーロ様なんだから能力に不足がある筈がない。自惚れなんかじゃなくて、実際そうだと思し、そこは譲れない。

スクアーロ様は出来の悪い部下を傍に置いたりしない。だって、仕事の質が落ちるから。それはVARIAの名に関わる。






 じゃあどうして…?仕事が原因じゃないとすれば何が…。








 …あ、なんだ。

そうか、見た目か。





 美的レベルに関しても非の打ちどころのないスクアーロ様に、平均かそれ以下の私は不釣り合い、そう言うことか。

 確かに、傍から見れば違和感ありまくりなんだろうな。私たちが上司と部下であっても。あー、自分で言ってて悲しくなってくる。

 かといって、容姿ばかりはどうしようもないというのは事実でありまして。

 どうしたらいいんだろうか…











 と、悩んだ末に辿り着いた答え。それが、




「死ぬ気で天音女の子化計画」





の始動、なのだ。

…なんていうネーミングセンス。後でもっとかっこいい名前にしよう。

いや、名前なんかはどうでもよくて。

 私はその計画に、文字通り死ぬ気で挑んだ。

風呂上がりのドライヤーから始まり、ルッス姐に女の子らしくする秘訣を聞いたり、ベルフェゴール様の美的理論を真剣に聞いたり。ふ、ふぁっしょん雑誌(駄目だ噛みそうになる)も生まれて初めて買ってみた。

普通じゃん、なんて言わないで。こっちは必死なんです。

 その計画の一環として、任務帰りの人間観察を敢行しているというわけだ。







 今日の任務は急遽スクアーロ様が不参加になったので精神的には大打撃だった。任務自体は無事に遂行できたけど。スクアーロ様が、自分がいない代わりに多めに部下をつけてくださったからね!そこらへんもぬかり無いんだ。相手の戦力とかを計算抜きに一瞬で把握して的確な人員配分をする。

いつか、私もあんな風になれればいい。そうなることが、暗殺者としての私を育て上げてくれたスクアーロ様やVARIAの皆さんへの一番の恩返しになるはずだ。





 こうして町の人を眺めていると…改めて、この街のファッションセンスの異様な高さが分かる。うわぁ、一々動作にまで品がある気がする。あれを習得するのにどれくらいかかるかなぁ…。

同時に、今までいかに自分がその類のものに興味がなかったのかを思い知らされる。…いいんだ、過去なんて。天音、前だけ向いて未来へ全力ゴーする所存であります。






 あてもなく歩き回りながら周りを観察していると、一際目につく男女連れが目に入った。

 あの人たち、凄いハイセンスだな…疎い私にもわかる位。大体、後姿からセンスの良さが滲み出てるっていう時点で異常だ。




 もう少し、良く見たい。




 女の人の髪型は私の髪型に似て…なくもない。私の場合、あんな艶々でも似合ってもないけど。スタイルもいいなぁ。あと、怖い位の露出をしてないっていうのも私的には非常にポイントが高い。何のポイントかと言うと、好感度と参考にしたい指数だ。どんなに素敵でも、露出が高いものは参考にできないから。

 男の人も凄くスタイルがいい。っていうか雰囲気からかっこいい。なんかピリッとした感じの。顔は見えないけど、きっと美男子に違いない。ニット帽を被って、黒を基調としたこーでねーと…じゃないコーディネート。

 二人は連れだって、あるお店に入った。ショーウィンドーに飾られた商品を確かめる。

 ここは…ジュエリーショップ。

 へぇへぇ、やっぱりあの二人はカップルさんか。結婚間近の。

いいねぇ、カップルとか恋人とかを見ると幸せな気持ちになれる。なんて言えばいいんだろう?幸せをおすそわけしてもらったみたいな。

私も女の子だから、素敵な恋や結婚なんかに凄く憧れる。職業だとか自分の女の子としてのレベルなんかはこの際度外視。憧れることに罪は無いよね。

 だから、エンゲージリングとかっていうのだって素敵だなって思う。戦闘用のVARIAリングのデザインもかっこいいし私のストライクゾーンど真ん中なんだけど、そう言うのが好きなのとエンゲージリングに憧れるのはちょっと違う。エンゲージリングが素敵なのはデザインだけじゃない。その後ろにある幸せが、一層リングを素敵にするんだ。…と思う。




 あ、あそこに飾ってある奴可愛い…



 ショーウィンドウの一番端に陳列されていたリングに何となく目を止める。

 細身のフォルムで、全体的にシルバーでできたリング。宝石は詳しくないから種類は分からないけど、小さくて淡いピンクの石がちょこんと付いている。

 そんなに高いものでもないし、幹部の皆さんほどではないにしろお給料も貰ってる。買えないこともないな…

 …まあ、これもエンゲージリングなんだけど。自分で買ったら意味無いか。









 さっきのカップルさんはもう結婚指輪決めたかな?

 店内に目を戻すと、女の人が隣にいた男の人に話しかけていた。横を向いているおかげで顔がよく見える。あ、やっぱり素敵な人だ。顔立ちの系統としては私に似て…なくもない。あれだ、元素の周期表みたいなので分類したら同じ族に入る。水素とフランシウムみたいに上下の開きは大分大きいけど。あの人、幸せオーラのおかげで余計に綺麗に見えるなぁ。これって、エンゲージリングの原理だろうか。




 あ、ほっぺにちゅーした。





 ひゅーひゅー…って私はどこの野次馬だ。

 男の人は照れているのか、止めろというように女の人を押しのけている。シャイボーイなのか、そうなのか。イケ面(推定)のくせに照れ屋だなんて可愛いなぁ。女の人は押し退けられようが何されようが全然めげない。きっと愛は伝わってるんだね。

「あなた!愛してる!」「やめろよこんなとこで!」「もうっ、照れちゃって可愛いんだから〜」うふふー、あははー(以下略)

 …ってな会話が為されているに違いない(私の勝手な妄…想像だけど)。

 男の人が店員に話しかけた。何かを指差している所を見ると、もうどれを選ぶか決めたようだ。

 新しい二人の門出を祝福するように店員さんがほほ笑む。

 私も心の中でお祝いしてあげよう。

おめでとう、この世界の幸せの総量を少しでも増やしてください。通りすがりの私にそうしてくれたように、幸せを無意識下に広げてあげてください。






 その時、ずっと向こうを向いていた男の人が女の人の方に向き直った。端正な横顔が、まるですぐ目の前にあるかのように私の目に映りこむ。














 二人は店を出ることにしたようだ。

 それを見て、私は弾かれたように走り出した。











私は別に、そこにいても構わない、でも。




 …誰だって嫌だよね、自分が彼女と幸せな時間を過ごしてるときに、




出来の悪い部下に会ったりなんかしたら。








だから私の足は、全速力であの幸せな空間から逃げている。










 もしかしたら、私が今までスクアーロ様の傍にいられたのだって能力のせいなんかじゃなくて。

 ただ単に、私にあの人の面影があったから、なのかな…



なんて思ったり。


だとしたら、

スクアーロ様。

私はあなたを少しだけ見損なうかも知れません。







ううん、やっぱり尊敬します。それくらいあの人を愛してるってことだから。

恋すると強いのは、乙女だけではないようだ。

じゃあ、私はこれから先もスクアーロ様のように強くはなれないのかもしれないな。









 それを



不満に感じる私は、




身分不相応の、贅沢者ですか
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