スクアーロ短夢
□ホッとキャンディーをひとつ
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「スクアーロ君、ありがと。あ、そうだ、これお礼にあげる。」
半分以上を睡眠時間に充てて過ごした授業の後、隣の席の天音がごそごそと制服のポケットに手を突っ込み、取り出した何かを差し出した。
「はい、イチゴミルクキャンディー」
「…俺にか?」
「他に誰にあげるのさ」
ずっとポケットに入れていたせいか、包みはくしゃくしゃ。手の上の飴は天音の温度を溜めこんで、ほんのり温かい。
「あ、もしかしてスクアーロ君甘いの嫌い?」
「好きじゃねえ」
「そっか、じゃあ負け組か」
「俺は常に勝ち組だぁ。負けたことなんざねぇ!」
「はいはい。でもさ、甘いもの、即ちすうぃーつの無い人生=無為。」
「そうかそうか」
「そうだそうだ」
「…」
「まあ、そういうわけでこれを機にスクアーロ君も甘党になればいいよ」
「誰がなるか」
「ああ!可哀想なイチゴミルクキャンディ―!!折角熱い釜の中で溶かされて成形されて一個一個個包されてその上大きな袋に入れられてお店に並んでじっと待って」
「じゃあなぁ」
「え、最後まで言わせてよ」
「まとめて言え」
「食べないなら飴返せ」
「断る」
まだ温いキャンディーをポケットに滑り込ませて、隣の奴がうるさい机から離れる。
背中の方でまだ天音が何か言っているが、聞かない…のは格好だけで、本当はちゃんと聞いてやってる。優しいだろ?
何で礼を言われて飴なんぞ貰ったのか、全く身に覚えが無い。席が隣り合っているせいで毎日毎日いろんなことがあって、そのいちいちを事細かに覚えてなどいない。
ただ、隣でノートを書く手だとかアホみたいに笑う顔だとか、天音に関する切れ切れの映像が、俺の『毎日』として蓄積されていく。
もうしばらくはこんな毎日が続くんだろうな、なんて、ポケットの中でキャンディーを弄びながら思ったりもする。
(スクアーロ君、毎日一緒にいてくれて、ありがと。)
俺のポケットの中でも、やっぱりイチゴミルクキャンディ―は温かいのだ。