スクアーロ短夢
□これは仕舞えません
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ああ、もうすぐ0時だ。
時計を見て、分かりきったことを声に出す。すると、まるでタイミングを計ったかのようにノックされるドア。こんな時間に来る奴、あいつしかいない。なんでって、私が呼んだからなんだけど。
「入るぜぇ」
「おう、入りやがれこんちきしょう」
「…てめえ、また妙な本読んだのかぁ?影響され過ぎてんぞぉ」
「へへへ、ありがとうてやんでい」
「褒めてねえ、つーか普通に喋れねえのかぁ?」
「なめんな、天音様に不可能なんざねえ!!」
「…」
「なんだよその目は」
スクアーロは醒めた目でこっちを見ていたが、何故かフッと笑みを零した。笑み、と言えば聞こえはいいが、スクアーロの笑みは十中八九ドヤ顔を伴った嘲笑なので、見ている側からすると腹立たしいことこの上ない。
「何その表情(かお)腹立つ、美系に産んだ君のご両親に今すぐ土下座してこい」
「不可能はない、と言ったなぁ?」
「言ったよ、本当に無いもん」
「じゃあ…部屋位まともに片付けろぉ!」
モノが散乱しすぎて足の踏み場がねえんだよ!踏み場どころか、まず入室すら出来ねえたぁどんな部屋だぁ!大体てめえは生活能力が無さ過ぎる!炊事洗濯は出来てんだから、身の回りもちったぁ何とかしろぉ!あまりひでえから使用人が俺に泣きついてくんだよ!てめえも一応女だろおがぁ!!そもそも
「だーっ!うるっさーい!!」
もふん!!
「この!クッション投げんじゃねえ!」
「うるさいうるさいうるっさーい!!」
「じゃあ言われる前に片付けろぉ!俺だって言いたくねえよこんな小言みてえなこと!この部屋に来る度何度も言ってきたが、一向に片付かねえじゃねえかぁ!」
「言われた時は片付けるけどすぐこうなっちゃうもん!」
「使ったものを元の場所に戻せばそうはならねえだろおがぁ!」
「なるもん!て言うかスクアーロ誰?誰なの?私のお母さんなんですかー?」
「敬語うぜえ!誰って、仕事の同僚に決まってんだろうがぁ!」
「…」
「な、なんだぁ?急に黙」
「うっせ馬鹿!帰れ!禿げろ!」
「な”!!俺に用があるから部屋に来いっつったのはてめえだろぉがぁ!!」
「うっさいうっさい!用事なんか今この瞬間消え去ったわ!お前もこの空間から消え去れドカス!ばーかばーか!」
「あ”?!こんの…もがっ!?」
「サヨナウラ」
渾身の枕ピッチングでKY(空気読めない)騒音機を部屋から追い出し、思いきりドアを閉めてやった。ドアの向こうからは暫く叫び声が聞こえていたが、徹底的に無視しているとやがてバーン!と言う音を残して静かになった。あの野郎、ドア蹴りやがったな。自分の強さ分かれよ、ヴァリアー幹部に蹴られたらドア凹むっての。後で修理代請求してやる、ついでにボスに告げ口してやる、スクアーロが屋敷破壊しましたーって。
…あー、あいつ本っ当ーに信じらんない。何サマですか?お母様ですか?ソウデスネ、俺様スクアーロ様ですね、わかってますよ!
ちら、と自分の部屋に目を走らせる。
確かに、確かにあいつの言う通り、『整理整頓』とはかけ離れた空間だよ。床に物が普通に置いてあるし、引き出しは開いてるし。掃除はしてるけど。
でもあんな風に言わなくたっていいじゃない!怒られたら逆にやる気失くすわ!どうしてもっとこう、子供の自主性を重んじるような言い方ができないのかね、あの男は!まあ、私もあいつの子供になった記憶は無いけど!
…あーあ。何であんな奴なんかに。
スクアーロに投げつけた枕の下に隠してあった、今はベッドに置かれているだけの包みを手に取る。中身はシルバーチェーンのネックレス。街を歩いてたら、偶々目に入って、気に入ったから何となく買ってきたもの。
…何が偶々だ、何がなんとなくだこの野郎。
自分に毒を吐いて、乱暴にTシャツの襟口から手を突っ込む。握って取りだしたのは、包みの中にあるのと対をなす、ネックレス。
偶々、何となくペアのネックレスが目につくわけ無いだろ。普段装身具の類に興味持たない私なんだから、尚更だ。
大体、何でその片割れを口うるさいただの『同僚』なんかにあげなきゃいけないのだ。
あーあ、自分気持ち悪い。
首にぶら下がっている奴を頭から抜いて、見ないで適当に放り投げた。じゃらん、と壁かなんかに当たって床に着陸。
これであのネックレスも床の上のモノの一部だ。
『部屋位まともに片付けろぉ!』
もう、知らない。