スクアーロ短夢

□騎士志願
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 毒林檎はお姫様の前を転がる。王子は口づけで目覚めを与えようとするし、ガラスの靴はその足から滑り落ちる。蛙は池から話しかけ、茨は閉じ込め、ナイフは愛しい人を殺せと囁く。

 そして俺は、お姫さまとは程遠い目の前の女を、一生守ってやろうと誓う。正確に言えば、誓おうとしている。


「何よ」

「なんでもねぇよ」


 一般人より遥かに研ぎ澄まされた感覚を持つこいつは視線に敏感だ。暗殺者として、そうであってもらわなくちゃ困る。ただ、一生片想いを貫こうなどと言う馬鹿らしいほど哀れで健気で、ある意味乙女チックな決心をしてしまった男にはどうしようもなく厄介で歯痒いだけだ。

 こっそり誓うことさえできない。

 息を吐いて目を逸らしたら、「幸せが逃げちゃうよ」だとさ。


「幸せが逃げるんじゃねぇ、俺が逃がしてやってんだぁ」

「結局逃げられてんじゃん。可哀想な人」

「全くだぁ」


 そう、いくら弁明しようが、「逃がしてやっている」のだと見栄を張ろうが、他人は俺に「哀れな男」のレッテルを貼るし、事実、それ以上でもそれ以下でもない。

 それでも構わないと思う。


「何、まだ何か用?」

「ちょっと黙ってろぉ」


 訝しげな眼を正面から見据え、小さく息を止める。




 王子役は、お前より後に死ぬことが出来る奴、のうのうと生きることが許されている奴に譲ってやる。

 その代わり、ナイトの役だけは手放さない。誰に何と言われようが、誰よりお前の近くで、お前が死なないよう剣を振っててやる。

 いいか、ずっとだ。



 血の契りも、忠誠の口付けも、誓いの言葉さえ無い。ただ、半ば睨みあうようにしながら、一方的に「思う」だけの誓い。


「…」

「…もう喋っていいぞぉ」


 誓いは済んだ。


「…今のスクアーロ、嫌い」

「なんとでも言えよ、オヒメサマ」


 馬鹿にしてんの?と可愛げもなく鼻を鳴らした同僚は、顔を背けて笑って見せた。一丁前にメランコリックなんぞ滲ませて。





騎士志願
 俺の命が尽きるいつかの未来。その時この背中にお前がいれば、それでやっと、俺はナイトになれたって理解るんだ  

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