スクアーロ短夢

□GIVE ME YOU !!
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「欲の無い奴」

 よく言われる。言われれば反射的にそんなことありませんよと返すけれど、執着心が零と言っても過言ではないほどに薄いのは、やはり欲が無いということなんだろうか。

 例えば隣の人持ってる素敵なモノはその人が持っているからこそ素敵に見えるのであって、仮にこの手の中にあれば魅力なんか微塵もない。そう言うことを知っていて、それでも絶望も落胆もせずにそれなりに充実した日々を送っていて、つまるところ昨日までの私はそう言う人間だった。

 昨日まで、と言った。この伏線が導き出せる意味は「今は違うのです」と言うただその一点だけで、まあ、その通り。違う。

 今の私。とても欲しい。何が?目の前が銀色が。堪らなく欲しい。矢も盾もたまらず、手段さえ問わずに、ただただ手に入れたい。そう思っている。

 この執着心がいかに大きなものだったのかということは、思った直後に口から素直な言葉が飛び出したことからも明白だ。



「下さい」
「おらよ」



 そう言って丁度飲みかけだったマグカップを差し出すスクアーロ。中身は奴が適当に入れたイタリアンコーヒー。恐らく、私が本気で淹れたものよりうんと上等な。

 違うんだけど、とは言わずに黙って受け取り、一口貰う。頑なにブラックしか飲まないこの男と違って、ミルク派の私はブラックもいける。以前、バイみたいなもんだと言ったら「もっとましな喩はないのか」と怒られた。ごめん、無い。ちなみに私はバイでもレズでもない。

 ありがとう、と返却したカップをまじまじと、それからちらりとこちらを窺い見た君の考えてることなどお見通しだ。生憎間接キス位で動揺出来る私ではない。



「それじゃあ、さっきのは了承ととらえていいんだね」
「あ”ぁ」



 上の空気味にカップに口をつける君は、いとも容易く自分自身を私に与えてしまった。



「…ありがと」



 こうして私は、殆ど無労働且つ平和的且つ合法的にスクアーロを手に入れた。

 追いかけてる時が一番楽しかったのよねぇ、なんてよく聞く話だけど、不思議なことに私の脳は未だにスクアーロが欲しいってそう思考しているらしい。

 つくづく、満たされないように出来ている。

 そういうわけで正当な権利の元スクアーロに抱きついてみたりするわけだけれど、スクアーロ曰く、塀の上の日だまりでぬくぬくしている猫並みの満足げな顔をしているということだ。



GIVE ME YOU !!





 昨日の私と今日の私における決定的な違い。たった一つの光景を目にしたかどうか。

 真夜中、月の下、書類だらけのデスク、小休止とそれを貪る君。幾語を組み合わせようと表現できない程、神々しいとさえ感じられる光景に、生まれて初めてであった。

 その瞬間、ああ、これはもう本物じゃなきゃだめなんだな、と悟った。

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