スクアーロ短夢
□以心伝心
1ページ/1ページ
人間の相性を決める要因は数え切れない。
「 、 ろの が い?」
表面に姿を見せるのはその人間を「好ましい」と感じる認識に過ぎないが、そこに至るまでにはそれらの要因たちの比重やらなんやら複雑な経緯を経ている。
そのせいで悶々必要以上に悩んでいる奴らがごまんといる。俺もまあそのうちの一人であるのだが、こんな回りくどいことを言って最終的に何が言いたかったのかと言うと俺は天音の声が好きだとそう言うことだ。くどい。
そう言う訳で半覚醒状態の今も、耳で天音の存在を絶賛認識中。それが何ともいえない安心感をもたらしてくれるものだから、起きぬけの耳で内容がいまいち把握していないとしても十二分に価値があるのだ。
「 ロ? きて ?ねえ、浴衣何色が良い?」
わりぃ、今じゃ何言ったって無駄だぁ。でも、話しかけるのは止めないでほしい。酷く恣意的で自己中心的な願いなのはわかっている。
ぽんぽんと軽やかに柔らかい言葉を紡ぎ続けていた天音の言葉が脳内に意味を描きだすまでに、少しのタイムラグがあった。
…浴衣?
浴衣、と言えばジャポーネの伝統衣装のことだろうか。あの、ジャポーネのナイトフェスティバルで着用する。さして詳しい訳ではないが、何度か目にしたことはある。天音が色を尋ねてきたということは、浴衣姿を披露してくれると言うことか。
急激に覚醒度の上がった脳内で一瞬間に様々な思考が飛び交う。瞼の裏では、天音一人の浴衣披露会だ。
天音といえば隊服のイメージが強いせいか、真っ先に浮かぶのは黒だ。黒い髪ともぴったりだし、まず間違いないチョイスだろう。きっと大人びて見える筈だ。
二番目に好きなのは青だよ。ふと思い出した天音の言葉。そう言えば、天音の持ち物は青系が多い。白地に青い花の組み合わせも、涼しげで夏のこの時期にはぴったりだ。
二番目が青なら、一番目は何だったか。「…銀。」ああ、そうだ、あいつそんなことを言っていた。俺の銀髪をぐいっと引っ張った天音が、言われた俺より照れていたのをよく覚えている。
…浴衣の色としては、なぁ。
じゃあ、黒か青の二択か。
いや、ちょっと待て。こんな時位、天音に違う色も合わせてみたい。天音は頑なに無彩色か青しか着ないが、それしか似合わないと言う訳では決してないのだ。
よく考えてみろ、天音が着る浴衣。思いつく色を、次から次へと天音に合わせて行く。
…これだ。瞼の裏の天音がくるりとその場で回って見せ、俺は間違いないと確信した。先にも述べたように浴衣についてそれ程詳しい俺ではないが、それでもわかった。
漸く決定した俺は、満を持してそれを口にした。その口調には多少得意げな響きが混じっていたと思う。
「白地に、ピンク。絶対似合う」
ピンクは、どぎつくない方の。
普段あまりしない女らしい格好に、きっと天音は照れるに違いないから。仄桃色に頬を染めた天音に、きっと似合う。もう他の色は考えられない。
自信満々に言い放った俺だったが、続く沈黙の長さに若干の不信感。まあ、天音はあまり身に付けない色だから、戸惑っているのかもしれないが。
直後、天音の吹き出す音。
「…笑うこたあねえだろぉ」
思いの外拗ねた口調になってしまったが、仕方がない。俺だって必死に考えたんだ。
そこで、照れ隠しをする時にも笑う天音の癖を思い出す。ああ、なんだ、そういうことか。
「スクアーロ、そろそろちゃんと起きてよ…ピンクでも、似合うとは思うけど」
もうすっきりと冴えた目を見開いた俺の目に飛び込んだのは黒と紺と白、男物の浴衣三着を手に笑いを隠しきれない天音。
「スクアーロの浴衣の話だって」
完全に馬鹿にされている。
だがそんなことより俺の目を惹きつけていたのは、まさに俺が考えていたような浴衣を身にまとった天音であって…
まあ、俺たち気が合うよなって言う、そう言う話だ。
以心伝心
「今度本部主催の浴衣パーティーがあるからって、ルッス姐が」
「暇な奴らだな…」
「そのお陰でスクアーロに浴衣着せれるから私は良いけどね。ちなみに、山本考案」
「(…ナイスカス!)」