スクアーロ短夢
□リップ!
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リップクリームの効用は絶大である。
だって凄いじゃない。水分0の唇に付けても、暫くすればしっとりになってる。周りの女の子が付けているのをちょっと遠い目で見てたけど、ここまで効くとは思ってなかった。
冬場の車内は、暖房で乾燥が激しい。きっと外も乾いてるだろうから、もう一回塗り直しておこう。
グリーンアップルの甘い香りに頬を緩ませながら、下唇に塗ったリップをむぐむぐと広げる。
ああ、何か、女の子!!って感じだ。
なんて、ここ最近滅多にないほどうきうきとハミングしながらリップを仕舞っている時。視線を感じて顔をあげる。
まあ、この車内で私に「視線」を向けられるのは、ひとりしかいないんだけど。
「なに?スクアーロ」
「随分機嫌良さそうだなぁ」
「ふふん?気付いたかい?いいでしょーう?良い匂いもするし、よく効くんだよ。あ、スクアーロも使う?」
仕舞いかけた黄緑色のスティックを差し出したら、馬鹿じゃねえのって目で見られた。冗談の通じない奴だ、全く。まあここで「使う」とか言ってたら確実にボディーブローはかましていただろうけど。
「まあ、確かに効果はあるみてぇだなぁ」
「お!流石、違いの分かる男スクアーロだ!」
「それ付けだしてから、アホみてえに口開けなくなっただろぉ?」
褒めてくれたかと思いきや、そんなことを言い出すスクアーロ。
確かに、リップが付いてる、って意識してるせいか気を付けて上下の唇をくっつけてはいるけど。そこじゃないだろう。
とは、思うけど。どうやら、私というものは相当楽観主義らしい。
「所で、スクアーロ君」
「あ”?」
「そうやってちゃんと見ててくれて、嬉しくないわけじゃないよ。」
だって、そんな些細な変化、よっぽど注意深く見てなきゃ気付けない。私の知らないところで、スクアーロは私を見ていてくれた。
素直な私がそう言った直後、反応に困ったスクアーロが照れ隠しにキスと言うベタな展開に逃げたことも、グリーンアップルに免じて許そうと思う。
リップ!
スクアーロの口にちょっとリップが移ったことは、後で皆の前でからかう為に黙っておこう。