□貴方に菓子を 貴女に花を
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「バレンタイン…?」

突拍子もない単語に思わず私はオウムのように復唱するしか出来なかった―。



 貴方に菓子を
 貴女に花を



正直困った物だ。
毎年確かに数人にあげてはいるけれど…。
チョコをせがまれるとは思わなかった。まぁ一つや二つ多く作っても支障はないのだけれど。

「こんなもんかな…」

「美味しそうですねェ」

「・・・」

さっきまで気配がなかった筈…。
なのに何故この男は私の真横にいるのだろうか。
思わず固まるとザクスは面白そうにフフフ、と笑った。

「…なんでザクスが此処にいるのよ」

「甘い匂いがしたものですから。つい…ネェ」

『菓子喰ワセロ!!』

なにがネェ、なのよと言うと溜め息が同時にもれる。
お菓子を前にしている所為か上機嫌のザクスを無視して、私は洗い物を済ませようと流しに手をつけ始めた。

「毎年毎年、律儀ですねェ。レイムさんにも渡すのでしょう?」

「まぁお世話になっているんだし、これぐらいはね…って何食べてるのっ!」

「いやァ、つい♪」

悪びれも無く満足そうに笑みを浮べたザクスに呆れて物も言えない。
まぁザクスの分も入っていたからいいか、と油断しているとまたムシャクシャと食べている音がしたので振り向くと、案の定二切れ目を口にしているところだった。

「Σちょっと!何おかわりしてるのよ!!」

「レイムさんの分だと思えばいいじゃないですカ」

「良くないわよ」

洗い物を中断して皿ごとブラウニーを没収する。残り僅かになってしまったブラウニーを見て、慌てて数を数え直す。

「思ったんですが」

「…何」

「例年より二つほど数が多い気がしますヨ?」
 
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