ぎんたま

□しまうは心の奥
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「ぜんぶぜんぶ、大事にしまっておくのヨ」
神楽は定春に抱きついて、目を閉じる。いい匂いがする。
胸が苦しくて、どうしようもなくなったとき、こうすると落ち着くのだ。
今日、近藤が万事屋にやってきて、バレンタインのお返しをくれた。
酢昆布10箱。10倍返しである。貰えるならもっと他のものが、高価なものがよかったと毒付いたけれど、本当はそれだけで胸がはりさけてしまいそうに嬉しかった。
羽根があるなら空を飛べそうな、そんな気分だ。
「いやあチャイナさんの好きなものって、これしかわかんないからさ。ごめんね」
そう言って近藤は申し訳なさそうに笑う。けれども自分の好きなものを覚えていて、喜ばせようと考える気持ちだけで幸せな気分になれた。
同時にとても苦しくつらい。もうだめだ。
自分はとても小さいから。こんな強い思いに耐えられない。
そして小さいから、相手にもしてもらえないだろう。分からないけれど、分かって傷つくのはいやだ。
こんな弱い自分はしらない。しりたくない。
強くなれたらと思う。
けれど今はその時期じゃあないから。
嬉しいことも苦しいことも、すべて自分のものだ。
だからその思いを、その時が来るまで、
「しまっておくのヨ」
神楽はもう一度つぶやいて、定春に顔をこすりつけた。
苦しくはなくなったけれど、少し寂しい気がした。




end





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